日本のものづくりが日本の伝統文化や固有文化に根差した行為であり、その精神性・歴史性がとかく強調されるのも、グローバル化の進行に伴うナショナリズムの隆盛と同様、このような背景があるからではないでしょうか。グローバル化を通じて、日本のものづくりが外に開かれているからこそ、外部に拡大した自己を閉じ、外部環境の激しい変化に対応しつつも自らのアイデンティティを維持し、“想像の共同体”を確固たるものにするために、「ものづくり」という概念装置が今必要になっているのではないかと考えられます。

3Sは「ものづくり」の根幹

 このように「ものづくり」という言葉が指し示す内容を考えてみると、本連載講座で解説してきた3Sを中心とした発見型改善は、グローバル化というコンテキストのもと、日本の「ものづくり」を改めて捉え直す際の根幹になりうる活動であると考えられます。というのも、整理・清掃・整頓という3Sは、その指し示す内容が極めてシンプルかつ理解容易である反面、実は3Sが慣習的行為となることで、工場文化の創造にもつながる奥深い活動だからです。

 このように、シンプルかつ理解容易で、文化の創造にも結び付く活動は、異言語・異文化というコンテキストの中で、極めて有効です。まず第1に、意思疎通が困難な異言語で難しい概念を説明しなくても、身振り手振りで実際に活動をやって見せ、現地の従業員も見よう見まねで活動を実践することが可能です。いわば実践の敷居が低いと言えます。そして第2に、3S活動を習慣として定着させることができれば、現場発の秩序形成が可能となり、まさに異国の地で「ものづくり」としての風土が形成されます。

 ここで重要なのは、日本の「ものづくり」という理念や価値観を言葉で表現して、現地に浸透させようとするのではなく、3Sという慣習的行為の実践を通じて、現地の人々が自分たちで新たな秩序・文化を形成し更新していくように支援することです。いわば、日本の「ものづくり」の中味を言葉や文字で表現して現地に移植し、日本の「ものづくり」を100%再現しようとするのではなく、「ものづくり」の中味を創造しうる慣習的行為を共有・定着させることで、日本の「ものづくり」と現地文化が融合した現場発の新たな「ものづくり」を創造することです。

 しかし、3Sを中心とした発見型改善を海外の工場で実践する際には、国内工場とは少し違ったアプローチが必要になります。というのも、国内工場と海外工場では、改善活動を展開していく上で直面している課題が異なると考えるからです。