一例を示せば本書には、企業は合併・買収という手段によって内部成長より高い成長率を実現することが可能となるが、2社(もしくはそれ以上の企業)を1個の管理組織体にまとめ上げ、ひとまとまりの資源の集合体としてさらなる成長を求めうる状態にするまでには、多大なマネジメントの労力を投入する必要があるとの指摘がある。これは今日耳にすることの多いPMI(post merger integration)の重要性にほかならない。このような意義をもつ著作が、われわれから遠い存在のままであるのは、いかにも残念に思われた。このような思いが勝り、力不足を重々承知の上で、第3版の訳書の作成に取り組むことになった。

 本書でペンローズが分析を試みているのは、企業の成長のメカニズムである。ペンローズは、企業をブラックボックスとして扱う伝統的な経済学とは異なり、その「内側」を重視する。「内側」を重視した結果、企業は2つの属性──物的・人的資源の1個の集合体であること、1個の管理組織体としてその全体に調整が及ぶこと──から定義される。このように定義される企業には、成長を促す内生的なメカニズムがあるだろうか、また、逆に成長を制限する何かがやはりその内側にあるだろうかというのが、本書の最も重要な問いかけである。冒頭に述べたとおり、本書は初版から半世紀を経てなおその価値を認められ、版を重ねている。この問いかけから始まった分析のいったい何が、それほどの価値をもつのだろうか。

 企業は物的・人的資源の集合体であるという定義は、われわれからするとごく一般的で、違和感もない。しかし、この短い定義のなかに、ペンローズ独自の企業観が埋め込まれている。その企業観を構成する重要な柱の1つが、資源は潜在的なサービスの束であるという考え方である。すなわち、物的であれ人的であれ資源にはさまざまな活用の仕方があるが、ある時点では実はその一部が用いられているにすぎない。したがって、企業内には未利用のサービスが常に存在している。加えてペンローズは、資源から何らかのサービスが引き出されるのは、資源について人的資源が有する知識に依存すること、事業活動での経験を通じて、企業内の人的資源の知識は増大し、また、その内容は変化することに注目する。したがって、資源から引き出しうるサービスは、人々の知識が増大し変化するのにともなって、増大し変化する。かくして、企業の内部には、常に成長の機会が存在することになる。

 このように企業内部には常に成長の機会が存在するが、それを実際に事業として活かすためには、企業の有するさまざまな資源についての知識を備えた経営者資源のサービスが投入されなければならない。企業は1個の管理組織体であるという定義から、この経営者資源の果たす役割はきわめて重要となる。経営者資源は、新たな計画を立案するだけでなく、既存の業務を円滑に展開し、また、新事業と既存事業との調整をも図らなければならない。ここで、企業内の資源やそれを用いた事業運営に関わる知識は、すべてが形式知というわけではなく、むしろ経験にもとづき形式知化しづらいものが含まれる。したがって、それらを活かすことこそが企業固有の競争優位の源泉となる一方で、企業成長に制限を課す要因ともなる。というのは、経営者資源の提供する最も有用なサービスが、企業内での経験にもとづくものである以上、それらを外部から調達することはできないからである。自ずとある時点で計画できる成長は、既存の経営者資源によって制限されることになる。