ストーリーテリングの世界的な潮流

川名:コンテンツといえば、コカ・コーラのマーケティングは、今、非常にストーリーテリングを重視していますね。こうした変化は、世界同時進行で起きているように思われますが、何かきっかけのようなものがあったと思われますか?

ステンゲル:とてもいい質問ですね。何らかの教訓や学びを提供するストーリーテリングの重要性は以前から認識されていました。けれど、これまではうまく広告に織り込めていなかったわけです。ストーリーテリングが重視されてきた背景は、いろいろなことが同時に起きたからだと思います。企業ブランド側の「伝えたい」という気持ちが強くなり、それを実現できるインターネットが普及し、そして受け手もストーリーを理解して楽しみ、周囲と共有するという広がりができたからではないでしょうか。

 コカ・コーラの広告では社会問題も取り上げ、肥満についてさえ避けていません。このほか、ユニリーバ・ダヴの「リアルビューティースケッチ」、先ほど触れたオーストラリアの「Dumb Ways to Die」、P&Gの「サンキュー・マム」などは、いずれもストーリーテリングが素晴らしく、実に強力な作品となっています。

川名:ビデオ(動画)の投稿や共有がすっかり当たり前になりましたね。今やテレビコマーシャルとビデオの境目がなくなってきていて、それはテレビが死んだというより、ビデオの力が大きいからだと思います。動画には音楽とストーリーがあり、そしてコピーも言える。動画は最大の伝達ツールですね。これまでは代理店が考え抜いて作った作品を一方的に見せていたわけですが、現代は、みんなが参加できる余地のある「ちょっとゆるめ」なものも求められていくように思います。

 ユニリーバのダヴは、2007年に「Evolution」という作品でカンヌを受賞しましたが、6年後にそれを上回る、さらに素晴らしい作品でグランプリをとったというのが印象的ですね。

ステンゲル:ブランド理念のパワーを現していますね。

川名:ユニリーバ元CMOのサイモン・クリフトは、ブランド理念を「purpose(目的)」と言っていましたが、高位なブランドの存在価値は大切だと思います。製品の差別化がどんどんなくなっているということもありますが、メディアが急速に進化し、消費者側の反応も引き出そうとするならば、以前は情緒的なレベルにとどまっていたものをブランド理念や目的を意識して作らないとダメだということを痛感しています。

ステンゲル:それができる組織も必要ですね。

(第3回につづく)

 

【注】
(1)ブリーフィング:クライアントが広告会社に対して、このような広告を作ってくださいと伝えること、また、その伝達会議。 <原義はブリーフ(要約物)+ ING。> その際、使う資料がアドブリーフシートであり、海外では、A4一枚程度の分量のシートが用いられ、通常は、テキスト文章だけで綴られる。ブリーフィングで、クライアント・広告会社双方が、イメージを共有できればできる程、良い表現物が出来る可能性が高まる。
(2)マーケティングファネル:ファネルとは上が大きく下が小さい「じょうご」の意味。マーケティングファネルは、マーケティング上の各種指標を上から下へ絞り込んで管理していく概念のこと。通常、「認知率」→「好意率/理解率」→「購入意向率」→「購入率」→「再購入率」等の指標が用いられることが多い。

 

【連載バックナンバー】
第1回 カンヌライオンズでの新たな挑戦とCMOの役割(その1)