第3に、企業(とくに大手)は、謙虚さが必要である。アジアの多くの企業幹部は、比較的短期間で世界レベルの企業をつくりあげたことを誇りとしている。当然であろう。彼らの成功は、秩序と、焦点を絞った実行によってもたらされた。だがそうした能力は、イノベーションを導いたり、企業変革を進めたりするうえでは残念ながらあまり役に立たない。

 なかにはとても謙虚な企業もある。たとえば、シンガポール政府の幹部の多くは、海外で生活した経験があるので好奇心が旺盛だ。彼らは常によいアイデアを探しており、その出所にはこだわらない。しかし、謙虚さに欠けた組織は、驚くほど早く、また過酷に、成功者の地位から陥落していくだろう。

 これらのマインドセットは一夜では変わらない。しかし、政策立案者や企業のリーダーが次の3つの分野で集中して取り組めば、改善されていくのではないか。

1.交流を促進する。動植物の世界では、異種交配によって群れの構成が多様になる。人のマインドセットも、多様な人々との交流によって変えられる。アジアのリーダーがより多くの時間を海外で過ごす。西側でより多くのアジア人が教育を受けて祖国に戻る。西側の人間がアジアで過ごす時間を増やす。こうしたことで、従来のマインドセットも何らかの形で変わっていくだろう。

2.新たなロールモデルを確立する。過去数十年間におけるアジアのサクセスストーリーには、政府の大幅な介入や、同族経営による繁栄、あるいは創業者による資源集約型産業への力づくの参入、などが多く見られる。今後はこれらに加えて、ベンチャー起業のイノベーターと大企業のイノベーターによる成功が語り継がれるようになれば、マインドセットはもっと変わるだろう。

3.バランスの取れた教育を行う。アジア諸国の多くは一流の教育制度を備えている。それでも、事実のみの学習や丸暗記にばかり焦点が当てられると、生徒の創造性を鈍らせてしまう恐れがある。シンガポールのリー・シェンロン首相は2012年8月、教育ママたちに警鐘を鳴らし国民を驚かせた。「子どもたちが、子どもらしい幼年時代を過ごせるようにしてもらいたい」と声明を発表したのだ。首相の論旨はこうである。子どもたちを自由に遊ばせ、もっとバランスよく育てれば、やがて好奇心や創造性を持つ大人になり、失敗を恐れなくなる。現代のような不確実な世界においては、それらは大変重要となる、ということだ。

 アジアは一枚岩からは程遠い世界だ。人、文化、歴史、宗教、習慣は驚くほど多様である。この多様性がビジネスの世界に再現されたらどうなるか、想像してみてほしい。マインドセットが適切に変化すれば、いまだアジアに眠っている広大なイノベーションの泉が、世界を変える可能性がある。


HBR.ORG原文:The Asian Innovation Century, Again December 31, 2012
 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。