また、マーケティング指標やポジショニングマップ、顧客調査など、マネジャー必携のツールそのものが差別化とは逆の方向に作用しており、群れ化を防ぐどころか促している。あたかもビジネスの世界全体が、商売道具に裏切られているかのようだ。

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 ここで気分転換に、現実と正反対の状況を想像してみよう。ある業界で10の企業が、互いに他社の動向をまったく知らずに動いているとする。製品開発やマーケティング、価格設定など、すべて暗闇の中で意思決定を下すようなものだ。さて、結果はどのようなものになるだろう。

 私の予測では、この10社はそれぞれが独自の戦略を展開するだろう。鳥にたとえるなら、10羽はそれぞれ完全に違った方向に飛び立つはずだ。

 それでは、飛び立った後はどうなるか。おそらく数社がかなり早い段階で墜落するか、燃え尽きてしまうだろう。数社は何とか飛び続ける。そして、ここが肝心なのだが、数社は画期的な成果を収める可能性がある。

 私は、教師としての経験から、学生に大きなプロジェクトの立案という課題を与える場合には、2つの方法があることを学んだ。1つは、学生に対して、事前にプロジェクトの要点を示したリストを渡し、評価の観点を明らかにしておく方法。もう1つは、プロジェクトの要点も評価の基準も明確にせず、ただ学生たちに対する私の期待が高いことだけを伝えておく方法。

 前者の方法では予想どおりの結果が出る。学期の終わりには、安全で逸脱せず、比較も評価も簡単な多くのプロジェクトが集まる。だが、後者はまったく違う。初めのうちは、明確な指示がないために生じる混乱や不安の解消にかなり時間を費やさなければならない。それでも、学期の終わりには大きな見返りを得られる。集まったプロジェクトは驚くほど多様なのだ。いくつかが失敗に終わるのは避けられないが、ほとんどはすばらしい。そして常にいくつかが、前者の方法では想像もつかなかった見事な成果を示す。

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 子供の頃、先生が知性について言ったことを思い出してみると、私があれほどいらだちを感じたのは、それらが行動を導かなかったためだと思う。私は賢くなりたかった。それなのに、先生の答えは、どうすればそうなれるのかを教えてはくれなかった。私が求めていたのは、たとえばIQテストでいい点を取る方法だった。何か向上心の的になるものが必要だった。

 しかし幸運なことに、先生は度もそういう答えをくれなかった。私たちは特に知性や資質、成果、美しさといった理想については、具体的で測定可能で、誰もが納得する定義に安心感を覚えてしまう。先生はそのことを理解していたのだろう。

 わかりやすい定義がなければ、私たちは混乱する。居心地のよい場所から1歩踏み出すときには、誰しも不安を感じるものだ。しかし、長い目で見れば悪いことではない。とりわけ目的が従順な模倣者の一群を生み出すことではなく、多様な自発的思考を促すことにあるのであれば。

 あなたが教師なら、まず、学生の能力を測定し、抽象的に表現することをやめよう。学生たちにモノサシという権威に頼らずに、他から抜きん出ることの意味を考えさせよう。やがてあなたは、学生たちが創り出す成果に目を見張るだろう。学生たち自身も驚くに違いない。

(続きは書籍『ビジネスで一番、大切なこと』をご覧ください)

 

DIFFERENT by Youngme Moon
Copyright (C) 2010 by Youngme Moon
Japanese translation rights arranged with The Sagalyn Literary Agency through Japan UNI Agency, Inc., Tokyo

 

【書籍のご案内】

『ビジネスで一番、大切なこと――消費者のこころを学ぶ授業』

彼女の授業は なぜ、それほど熱く支持されるのか? 「競争戦略論」マイケル・ポーター、「イノベーションのジレンマ」クリステンセンと並び、ハーバード・ビジネススクールで絶大な人気を誇る、いま、最も注目される女性経営学者、初の著書!
激しい差別化競争、渾身の企業努力が、結果として市場の同質化を招き、消費者の無関心を引き起こしてしまう……成熟化時代のマーケティングはどうあるべきかを示唆する1冊。
46判並製、200ページ、定価(本体1500円+税)

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【目次】
はじめに
序 棚に並ぶシリアルは、どれも同じに見える

Part 1
第1部 私たちが陥っている「競争」の正体
自覚はなくても、同じ方向を目指している
よくしようという努力が、感覚を麻痺させる
選ぶだけで大変すぎて、愛着どころではない
競争の群れから脱け出すには

Part 2
第2部 私たちの目を奪うアイデア・ブランド
世の流れの逆を行く「リバース・ブランド」
既存の分類を書き換える「ブレークアウェー・ブランド」
好感度に背を向ける「ホスタイル・ブランド」
ひと目でわかる違いを出せるか

Part 3
第3部 私たちは、人間らしさに立ち返る
生まれたてのアイデアには、呼吸する時間が必要
私たちは、もっとうまくやれる

ブランド図鑑
感謝をこめて