もう1つ、クラウドソーシングの活用例を紹介しよう。スマートウール(ウール専門のアパレルメーカー)がソーシャルメディアのアプリを通してファン主導の広告を作成するプロセスに、V&Sは協力した。フェイスブック上でファンから「スマートウールを脱ごうとしている」画像を募集し、寄せられた画像を広告に使うことによって、ファンをスターに仕立て上げた。さらにV&Sは、スマートウールのファンをテスターに採用して広告に登場させ、製品のイノベーション・プロセスに巻き込んだ。アウトドア関連製品のメーカーは通常、プロのアスリートをテスターに採用して製品のテストを行い、製品の革新にも協力を求める。しかし顧客やファンは、実際に製品を購入し使っているのだから、彼らの活用にはプロ以上に意味がある。

 オープン・イノベーションのプラットフォームは、このように独創的なアイデアを得るうえで役立つが、同時に広告の制作段階でも活用されている。例として挙げられるのは、テレビやウェブのための動画制作を行うモーフィルム(MoFilm)、ポップテント(Poptent)、トンガル(Tongal)である。オープン・イノベーションはあらゆる業界で広告費のあり方を変えている。膨大な固定費が変動費に切り替わることでコストが削減される。そしてコンテンツをより優れた、低コストのソースから調達できる。

 オープン・イノベーションを運営する組織は多くあり、それぞれが独自の収益モデルを持つが、そのすべてに共通している要素がある。クリエイティブな人材や戦略家、ファンなど、みずから名乗りを上げる世界中のクラウドの知恵を活用することによって、組織の能力を拡大しようという基本的な姿勢である。そうした組織のひとつにイノセンティブがある。特定の問題に対して独創的な解決者をマッチングさせるために設計された、世界初のインターネット・ベースのプラットフォームだ。そしてハーバード・ビジネススクール准教授のカリム・ラカニーがイノセンティブに関する調査を行ったところ、問題が解決者の専門領域から遠ければ遠いほど、それを解決できる可能性が高いことが観察された。ほとんどの企業は、多様な領域の専門家を雇えるほどのリソースを持っていない。オープン・イノベーションの運営者は、クラウドのネットワークを活用すれば独創的なアウトプットを得られるだろう。

 企業はまた、コスト面で競うためにもこれらのネットワークを必要とするだろう。オープン・イノベーションは、従来型の広告展開に要していた時間や支出の削減を可能にする。V&Sはクライアントとの関係を構築するにあたり、まずクラウドを巻き込んでブランドの抱える問題を明確にすることから始める。このクラウドには、ブランド自身のファンやコミュニティも含まれる。「問題の明確化」は広告代理店が昔からやってきたことだが、現在のプロセスはバーチャルで規模が大きい。有益な洞察を得られる場合も多い。クラウドを活用した広告展開では、ファンは制作の初期段階でフィードバックを提供できる。これはキャンペーン、テスト、改善といった段階を経る従来のサイクルに比べてかなりの時間とコストを節約できる。10のアイデアのうち1つが有望であれば、オープン・イノベーションの一員でもあるV&Sの専門家グループが、その新しいインプットを検討し、最終的なアイデアを確定する。

 広告代理店がオープンシステムへの移行に成功するためには、それをイノベーションの一環としてではなく、改革と捉えなくてはならない。この移行はいまだ実験段階にあり、大胆なクライアントやマネジャー、組織が必要とされる。ビジネスモデルを再検討し、地理的な制約にしばられ従業員の労働時間に頼る組織からの脱却をはかり、周囲に偏在する独創性を活用するシステムをつくり上げるのだ。

 

HBR.ORG原文:The End of Traditional Ad Agencies May 9, 2013

 

ジョン・ウィンザー(John Winsor)
クラウドソーシングを基盤としたクリエイティブ・エージェンシー、ビクターズ・アンド・スポイルズのCEO

ジェリー・ウィンド(Jerry Wind)
ペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授。同校のSEIマネジメント高等研究所、および「広告の未来」プログラムのディレクターも務める