2. 技術の用途開発の成功に必要なのは「用途仮説によるマーケティング」

 以上のナインシグマ・ジャパンの事例のように、オープン・イノベーションを推進する企業にとっては外部の技術の導入だけでなく、“自社技術を活用した用途の開発や事業開発”も課題である。そこでナインシグマ・ジャパン、TBWA博報堂では業務連携しながら、大学の科学知や特許、企業が保有する先端技術や休眠技術を活用した用途開発支援を行っている。

 技術移転の父と呼ばれるニールス・ライマース氏の言葉を借りれば、「技術移転の成功に必要なのは、1にマーケティング、2にマーケティング、3にマーケティング」と述べており、まさに「技術移転はコンタクトスポーツ」といえる(注1)。

 このニールス・ライマース氏の言葉のように、技術の用途開発を成功させるには、顧客価値の視点から自社技術の「用途仮説」を考え、それを広くアピールすることで社外の知のフィードバックを異分野から幅広く獲得することが重要である。つまり顧客のフィードバックという集合知をいかに集め、獲得できるスキームづくりが鍵となると筆者らは考えている。

 分析活動や知財・法務に時間を投下するよりも、重要なのは図のような「用途仮説」を軸にした顧客開発なのである。

 技術を単に市場へ告知しても、なかなか顧客開発できるものではない。そこで重要となるのが、図で示すところのプロトタイピングによる「用途仮説の見える化」という作業である。これを筆者らは“Showcaseづくり”と呼んでいる。

 筆者らが開発する“Showcase”は主に、ユーザーの使用風景が見える“ビデオプロトタイピング”、サービスストーリーが見える絵コンテによる“UXプロトタイピング”、またはレーザーカッターや3Dプリンター等で物理的に試作を開発する“ラピッド・プロトタイピング”がある。少し先の未来をプロトタイピングする“Showcaseづくり”は、研究成果の秘匿の部分は隠しつつ、ビジネスのにおいを感じさせる「事業構想」になっていることが鍵である。現在、筆者らは広告会社で培われた「難しいことをわかりやすくする」ノウハウを駆使することで、社外の知のフィードバックを異分野から幅広く獲得できるような “Showcaseづくり”を日々研究しているところである。

 以上のように第3回では、ナインシグマ・ジャパンとの共同連載による「事業開発への集合知の活用」について事例とツールやノウハウを交えて説明した。最終回の第4回では、スタートアップと集合知について、事例を交えて説明していきたい。

(高松充、及部智仁)

 

【注】
1.渡部 俊也、隅蔵 康一、『TLOとライセンス・アソシエイト―新産業創生のキーマンたち』ビーケイシー、2002年

 

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【連載バックナンバー】
第1回「集合知とデザイン思考」
第2回「異なる知性とのコラボレーションとデザイン思考について」