4.補償行為(compensating behaviors)
 イノベーターを目指す者が直面する最大の課題のひとつは、その「果たすべきタスク」がイノベーションに値するほど重要なものかどうかを判断することだ。わかりやすい手がかりとして、顧客がその問題を解決するのにどれだけお金を使っているか、という点がある。結局、顧客の新たな支出を創造するよりも、支出先を変えるほうが簡単なのだ。しかし、お金ではなく時間を費やして「補償行為」を行っている可能性もある。補償行為とは、企業が意図していなかったような方法で製品やサービスを利用し、問題を解決しようとする行為である。

 補償行為に着目してイノベーションを成功させた古典的な事例として、インテュイットの人気商品〈クイックブックス〉がある。同社は20年ほど前、自社の個人向け財務ソフト〈クイッケン〉の顧客の多くが自営業者であることに気づいた。これは不可解なことであった。なぜなら、〈クイッケン〉は堅牢な財務管理に必要とされる、複式簿記の機能を持っていなかったからだ。間もなく、こうした零細の自営業者たちが果たしたいタスクが明らかになった。月末の給料の支払いに十分な現金を確保できればそれでよかったのだ。専門家向けの商品は複雑すぎるため、彼らは代わりに〈クイッケン〉を利用していたのである。インテュイットはすぐに、複雑な会計システムを廃したソフトを開発し、1カ月後には市場を席巻した。

5.条件(criteria)
 顧客はタスクを、機能、感情、社会の観点から考える。あるソリューションの有効性を判断するには、まず顧客が求める条件を理解することだ――品質とは顧客によって異なるのだから。このページの最下部にある私の顔写真を見て、私が理髪店を選ぶ時に何を重視するか考えてみてほしい。手が込んだ髪型やシャンプー、髪染めの技術だろうか? 否、私が理髪店に求めるのは手軽さ、信頼性、手頃な価格だ。

 シンガポールをはじめアジアに店舗を広げるQBハウスは、これらの条件をクリアしている。手軽さと信頼性を提供する一連のプロセスを確立した同社の宣伝文句は、「10分で、カットのみ」。QBハウスはあらゆる客を対象とするわけではない。順番待ちの列に、美しくセットされた髪型の客を見ることはあまりないだろう。だが同社は、基本的なサービスだけを求めている私のような客を引き付けることに大いに成功している。

 うまく果たされていないタスクこそ、イノベーションの基盤を成す可能性を秘めている。それを見つけるために、当て推量に頼る必要はない。「5つのC」に順番に着目していけば、イノベーションのチャンスが明らかになるだろう。


HBR.ORG原文:The Five Cs of Opportunity Identification October 26, 2012

 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。