4. ミライニホンプロジェクトにみるデザイン・ディスコースについて

ミライニホンプロジェクトは、筆者らが開発している「電力や水など、ライフラインに依存しないオフグリッド環境の暮しを実現するプロジェクト」である。震災後、エスノグラフィーにより、一部のターゲット層で「自分でエネルギーを創り、コントロールし、消費することで、生活インフラから解放される未来の暮らしを試してみたい」という価値観が醸成されていることがわかった。

 そして、「ラピッド・プロトタイプによる小規模な実験」を行うために、立地環境にやさしく立地条件を選ばない「建築」、JAXAの技術を活用した高い濾過性能で、海水だけでなく、放射線汚染・硝酸性窒素などに汚染された水を浄水できる「浄水技術」、そして蓄電と放電機能を活かし「オフグリッドハウス」の電力を支える「電気自動車」など、国内の大企業からベンチャーに至るまで複数社が保有する先端技術と共創しながら、「オフグリッドハウス」の「ラピッド・プロトタイプ」を開発し、CEATEC 2011でミライニホンプロジェクトとして発表した。様々な視点を持つステークホルダーと「有用性」、「技術的実現性」、「経済的実現性」の視点で小規模の実験を行う中で、開発の方向性やビジネスモデルを精査でき、約半年間という短期間で販売モデルを完成させることに成功している。

 また様々なステークホルダーとの「デザイン・ディスコース」を繰り返す中でプロジェクトとして立ち上がったのが、オフグリッドハウスを活用した復興住宅モデルである。仮説住宅の住民、復興を推進する市役所、大学の建築科や建築士、地域の建設会社、スマート技術のための様々な企業からなるステークホルダーとの「デザイン・ディスコース」を通じて、サービスデザインのための小規模な実験を繰り返しているところである。

 以上のように第2回では、「デザイン思考」や「デザイン言語」の考え方を整理し、それらの活用方法を通して“異なる知性がコラボレーションできる状況を創り出す”方法論を説明してみた。

 イノベーションの概念を経済学に導入したジョセフ・シュムペーターは新しい技術的進化や発明なしにも「新結合」が生じることを『経済発展の理論』の中で強調した。しかし、日本が技術開発を得意とするがゆえに、イノベーションを技術革新という狭義の意味でしか用いていないケースは依然として多い。技術は良い製品やサービスを開発するという目的達成のための手段であるが、いつしか手段は目的となった。価値の創造が目的であるのに、価値創造の手段である技術開発が目的となってしまった。

 こうした中、「デザイン思考」は「技術中心から人間中心」へとイノベーションの本来の意味に我々を軌道修正してくれるアプローチである。つまり「デザイン思考」は、“人々の生活や価値観を深く洞察し、ユーザーが何を潜在的に求めているのかを感知しながら、プロトタイピングを通じて、新しいユーザー体験を提供するイノベーション・プロセス”である。今、最も日本企業に必要とされるプロセスではなかろうか。

(高松充、及部智仁)

【注】
1.野中郁次郎、竹中弘高、『知識創造企業』東洋経済新報社、1996年
2.Nam Pyo Suh、『公理的設計』森北出版、2004年
3.スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所、「スタンフォード・デザイン・ガイド デザイン思考 5つのステップ」、2012
一般社団法人デザイン思考研究所のサイトでダウンロード可能
4.Fleming Lee, Perfecting Cross-Pollination, HBR, September 2004.邦訳(『「学際的コラボレーション」のジレンマ』DHBR2004年12月号)

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【連載バックナンバー】
第1回 「集合知とデザイン思考」