3. 多様性とデザイン・ディスコースについて

 同じ組織の同質的なチームで「デザイン思考」を繰り返していると、チームにおける経路依存性(=ロックイン効果)が発生する。つまりイノベーションの機会に対して認識が狭くなるのである。

 一般的には、5〜7年以上にわたって同質的な集団に所属していると、メンバーの視野が狭くなる傾向にあると言われている。結果的に、「Not Invented Hereシンドローム(NIH症候群)」に見られるように、組織の境界線の外にある異なる価値観や知識を吸収しなくなる傾向がメンバー間に根付くのである。この経路依存性の罠、つまり認識の壁を壊す必要がある。

 認識の壁を壊すために筆者らが最も重要と考えるのは、ダイバシティー(多様性)の確保である。ダイバシティーとイノベーションの関係について、リー・フレミング(2004)の特許と多様性を分析した有名な研究がある(注4) 。この研究ではダイバシティーが高い集団でなければ、赤枠のようなブレイクスルーは起こせないことを示している。

 縦軸は「そのイノベーション(特許)に金銭的な価値があったかどうか」を表し、横軸は「メンバーのダイバシティー」を表している。メンバー間のダイバシティーが低ければ中庸な結果となる。

 ここで言うダイバシティーとは専門領域の違いのことである。ダイバシティーが高いということは、さまざまな角度から物事を解釈できる洞察が増えることを意味する。データサイエンティストが見落とす洞察を、プロダクトデザイナーが的確に解釈できるかもしれない。

 青い線の平均値だけを見ると、ダイバシティーが高まれば失敗の総数も増加するため、成功確率は下がる。つまりダイバシティーを確保しながら、失敗を前提とした不確実性をいかに低減できるかが鍵になる。イノベーションは確率論であり、失敗する総数を減らそうとすると成功する数も減る。ポイントは失敗の総数を減らすことではなく、1回の失敗で発生するコストをいかに最小化するかが重要になる。

 そのために筆者らが提案するのは「デザイン・ディスコース」と呼ぶ「ラピッド・プロトタイプによる小規模な実験」である。

「デザイン・ディスコース」とは「あるデザインが、社会的な文脈の中で何を意味し、また、なぜそれが必要なのかを、様々なステークホルダーとの対話を通して分析する概念」であると筆者らは考えている。

 完成にはほど遠い状態の「プロトタイプ」を媒介にして、技術者、学者、異業種のエンジニア、公的研究機関、メディア、ターゲット・ユーザー等を招き、社会的な文脈の中での「有用性」、「技術的実現性」、「経済的実現性」の視点からフィードバックを獲得していく。こうすることで早い段階でビジネスとしてのシミュレーションも可能となる。

 荒削りでも手に触れられる「プロトタイプ」を媒介にすることで、異業種との連携が促進され、価値あるフィードバックを獲得できるのである。

 このように様々な洞察を持つ異業種のステークホルダーと小規模の実験を行う中で、一気に資源を投下するのではなく、可能性が低ければ中止、または修正を加えることで、失敗により発生するコストを最小化しつつ、イノベーションを加速化することができる。

 以下に具体例を用いて説明しよう。