1.消費者が言う「ニーズ」は、本当のニーズを表してはいない
 以前の記事「イノベーションにまつわる4つのウソ」で書いたように、消費者は嘘をつく。将来の行動については言うまでもなく、今日どのように行動するかでさえ、消費者は正確に報告しない。これは悪意によるものではなく、単に人間の脳がこの種の作業に向いていないというだけである。

2.力を持つ利害関係者が、新たなアイデアの導入を阻む
 法規制による参入障壁はわかりやすい。しかし、市場に複数の利害関係者がいる場合、各々が強力な支持母体を擁し、そのニーズがイノベーションの前に立ちふさがる可能性がある。たとえばヘルスケア業界の場合、患者、患者の家族、医者、病院のスタッフ、保険会社による微妙なバランスが存在する。

3.市場の経済基盤が魅力的でない。あるいは、アイデアが市場に適していない
 インテュイットを創業したスコット・クックの印象深い警句がある。「我々が犯してきた失敗の背後には、いつも一見素晴らしく見えるスプレッドシートがあった」。表計算のつじつまが合うだけでは、実際にうまくいくわけではない。いわゆるBOP市場を開拓しようとする企業の多くは、1日に1ドル以下の収入しかない消費者を対象に採算の合うビジネスを行うことがいかに難しいか、身をもって学んでいる。

 結局、この3番目の問題が、我々の男性向け理容ビジネスにとどめを刺すことになった。机上ではうまくいったビジネスモデルは、実際の市場ではうまくいかなかったのだ。1脚のみのキオスク型店舗である程度の収益を上げるためには、我々が「スター理容師」と呼ぶ、顧客を引き付けリピーターにする人材が必要とされた。だが、スター理容師には相応の報酬がいる。そして最高の理容師たちは、我々が考えた財務モデルを吹き飛ばすほど高額の賃金を要求したのである。椅子を1つではなく複数設置して、ブランドを掲げて展開することは可能だったかもしれないが、諸事情を考慮して我々は事業計画を中止することにした。

 ホワイトスペースを狙う前に、簡単な思考実験をしてみよう。もし自分が「オーナー」の立場であったらどうだろうか。イノサイト・ベンチャーのパートナーであるピート・ボニーはこう説明する。「ある程度論理的に、自問してみるとよい。なぜ、このビジネスは今まで実行されなかったのか。それを実行していても不思議ではない人は、誰だろうか。彼らは実際に挑戦したのだろうか。挑戦した理由、あるいは挑戦しなかった理由は何だろうか。我々の目には明らかなビジネスチャンスと見えるならば、なぜほかの賢い人々の目にはそう映らないのだろうか。我々が知らないことで、彼らが知っていることは何だろうか」

 他者がこのチャンスを見逃している、という考えに基づいて自分の成功を期待しているならば、用心したほうがよい。そのホワイトスペースは、ただの見かけ倒しかもしれない。


HBR.ORG原文:Don't Make These Mistakes When Entering a New Market October 18, 2012

 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。