クリスチャンが解決の必要性を強調すると、ローラは次回のデザイナーとの会議にクリスチャンも同席するようお願いした。

 この会議では、クリスチャンは自分ではあまり発言せず、人々の意見を聞き観察することに努めた。デザインチームは、デザインのことを何も知らない開発部の「わからず屋たち」について文句を言う。そしてローラはそのなだめ役に終始していた。彼女は明らかに、クリスチャンの助けを期待していた。つまり、「皆さんの今回のやり方は容認できないので、変える必要がある」というメッセージを彼がチームに伝えてくれることを望んでいたのだ。

 しかし彼はそうせず、解決策が見出されないまま会議は終了した。クリスチャンにとって2つの問題が明らかになった。まずは、販促資料を改善する必要があるという問題。そして、ローラである。彼女には、すべてのマネジャーに要求される資質――人を動かすことに対する基本的な意欲や自覚――が明らかに欠けていた。ローラは、部下をいままでと違う新しい方向へ導こうとはしなかったのだ。

 我々はこれまでの経験や調査を通して、人に影響力を行使する意欲に欠けるマネジャーを驚くほど多く目にしてきた。その理由はさまざまである。職場の調和を維持することが自分の仕事であると考え、衝突や意見の不一致を避けることに全力を注ぐマネジャーがいる。人に好かれたいという感情に支配され、個人的な人間関係にマイナスとなりうることは何もやりたがらないマネジャーもいる。ローラの場合は、自分のことをマネジャーではなくいまだにデザイナーであると捉えていた。同僚にデザイナーの観点から低く評価されるのを嫌がったのだ。

 そのような人が、マネジャーになる資格があるだろうか。彼らは自分の職務に何が求められているのかを理解していない。昇格することで得られるステータスと収入は気に入るだろう。しかし、人に積極的に影響を及ぼして動かす意欲を持つようになるまで、彼らが完全に機能することはない。有能なマネジャーは、人に対して敏感で思いやりを持ち、影響力をいかなる理由でどのように行使するかが重要であることを理解している。しかしそれらは、他人の行動や思考、感情を方向付け、変える必要性に対する自覚があって初めて可能となるのだ。

 自問してほしい――人に影響を及ぼし、人を動かしたいと望んでいるだろうか。その準備と意欲はあるだろうか。これこそが、マネジャーやリーダーの最も根本的な役割なのだ。その意志がない、あるいは必要性を自覚していない、そうすることに気まずさを感じる、あるいはそれ以外の、たとえば人に好かれることをより重視している、という人は、上司として苦労することになるだろう。


HBR.ORG原文:If You Don't Want To Influence Others, You Can't Lead February 15, 2011

 

リンダ・A・ヒル(Linda A. Hill)
ハーバード・ビジネススクールのウォーレス・ブレット・ドナム記念講座教授。経営管理論を担当。主な著書にBeing the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader(邦訳『ハーバード流ボス養成講座 優れたリーダーの3要素』日本経済新聞出版社)がある。

ケント・ラインバック(Kent Lineback)
著述家。リンダ・ヒルとの共著Being the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader(邦訳『ハーバード流ボス養成講座 優れたリーダーの3要素』日本経済新聞出版社)がある。