エクスペクタスやディスカッションをきっかけに、ロードアイランドからサンディエゴまで、事業所同士の対話が生まれる。普段なら互いに会うこともアイデアに投資することもない人々が、未来を予測しようと協力し合うわけだ。

 新入社員、秘書、ラヴォワ自身も含めて、市場の全員が「知的資本」と呼ばれる仮想通貨を1万ドル受け取り、ミューチュアル・ファン・マーケットの株式の売買を始める。新しい証券の開始価格は10ドルに設定される。市場には、常時おおよそ50~60の証券が公開されている。従業員は、会社のイントラネットにログオンし、自分の証券ポートフォリオや、画面にスクロールされる新商品を確認する。株式を売買するには、ティッカー名をハイライト表示し、金額を入力して、売買ボタンを押す。市場投資の大半は、勤務時間外にウェブ・ブラウザー上で行なわれる。ラヴォワによれば、株式投資はこの〝ホワイト・スペース〟(訳注/ゲリー・ラムラーとアラン・ブレーシュが共著『業績改善の技法』の中で提唱した概念で、組織図や職務の範囲外にあって責任者や担当者がいない分野のこと)で行なわれ、ここであらゆるイノベーションが生まれるのだという。「オフィスはホワイト・スペースとして最適な場所とはかぎらない」と彼は話す。

 従業員は、好きな市場プロジェクトに参加できる。プロジェクトを前進させるのに必要な作業は「バッジ・イット(Budge-It)」項目と呼ばれ、プロフェットが定義してウェブサイトに公開する。「バッジ・イット」アプローチの目的は、組織の内向的な人々を参加させることだ。会議で注目を浴びるのは嫌いだが、〝抵抗勢力〟に立ち向かわずに組織に貢献したいと考える人々は多い。「イノベーション・ルームのような、イノベーションのオフサイト会議は、外交的な人々のためのものだ。しかし、真の天才は内向的な人々の中にいる場合が多い。オフサイト会議は天才よりも観客で占められてしまうのだ」とラヴォワは話す。また、バッジ・イットは、古株の従業員と若い従業員が互いの意見を尊重しながら、協力して問題を解決するきっかけにもなる。

 ラヴォワとマリーノのコンピューター画面には、それぞれの証券への投資金額や、完了したバッジ・イット項目が表示される。証券の株価は、投資金額に加えて、アイデアに対する従業員の貢献意欲も考慮するアルゴリズムによって決められる。

 株式が上位20位に達すると、プロフェットが推進プランや報酬の配分計画を立てる。その株式を提案した人、プロフェットを務めた人、バッジ・イット項目を完了した人、開発に貢献した人には、金銭的なボーナスが与えられる。アイデアがコスト削減や利益につながった場合、2年間の推定削減額や利益の25パーセントが配当として支払われる。また、投資で好成績を収めた人々には、年度末にボーナスが支払われ、さらなる投資資金も与えられる。そして、予測の手腕を証明した投資家たちは、高い影響力を持つようになるわけだ(ニューヨーク証券取引所では、ウォーレン・バフェットの方が私よりはるかに大きな影響力を持っているのと同じ理屈だ)。

 ミューチュアル・ファン・マーケットには金銭的な報酬と名声的な報酬の両方が絡んでいるため、市場に参加する動機はどちらか一方とはいえない。ミューチュアル・ファン・マーケットは、ライト・ソリューションズの企業文化には欠かせない一部であり、全従業員の業務のひとつでもある。すべての投資家は、自分の参加や成績を上層部に追跡されていることを知っている。