ライト・ソリューションズの歴史

 ライト・ソリューションズは、2000年にジム・ラヴォワとジョー・マリーノによってロードアイランド州ミドルタウンに創設された。ふたりは、大手軍需企業のアナリシス・アンド・テクノロジー社の上級幹部だった。1999年に会社がアンテオンに買収されると(その後、アンテオンはジェネラル・ダイナミクスに買収された)、ふたりは所有するストック・オプションを現金化して退社し、会社を立ち上げた。ふたりの創設したライト・ソリューションズの目標のひとつは、リーダーの役割を一新し、イノベーターたちが〝抵抗勢力〟の権力構造に縛られずにすむような企業体質を築くことだった。それ以来、ふたりは予測市場の力を信じる人々の間で、カリスマ的な地位を築いてきたのだ。

 2011年まで時計を早送りしてみよう。ライト・ソリューションズは185名の従業員を抱えるまでに成長し、アメリカ海軍には潜水艦用の指揮管理シミュレーション・システム、海軍には航空戦闘システム用のパフォーマンス測定ツール、そして国土安全保障省には3D状況認識シミュレーション・システムを供給している。いずれも競争の激しいハイテク分野だ。商業市場では、消費者やコンシューマー・ゲーム・プラットフォーム向けの複雑なプレーヤー管理およびトークン・ベンディング・マシンを提供している。軍事部門ではジェネラル・ダイナミクスやロッキード・マーティンといった多国籍企業と競合しており、商業部門ではIGTやバリーといったカジノ・ソフトウェア業者と競合している。

 創設者のラヴォワとマリーノは、ビジョンを持つ経営者や発明者の独断で会社の方向性を決めるという考え方には反対だった。ふたりはこう話す。「私たちはこの会社でもっとも賢いふたりなどではない。私たちはそれを堂々と認めている。確かに、実世界での経験は豊富だと自負しているし、会社の将来的なビジョンは持っている。しかし、そこにどう到達するのか、どのようなテクノロジーをどう利用するのかは、ふたりで決めるには大きすぎる問題なのだ」

 そこで、ライト・ソリューションズはほぼありとあらゆるものに投資できる予測市場を築き上げた。ジム・ラヴォワはこれを「楽しい市場」と呼んでいる。そのひとつの理由は、株式やアイデアの良し悪しについて口を出す〝スーパー投資家〟(訳注/ウォーレン・バフェットのことを暗に指していると思われる)がいないからだ。ラヴォワによれば、会社と従業員の関係を「私は給料を払う、お前は仕事をしろ」といった契約的なレベルから、感情的なレベルへと飛躍させるのが予測市場の目的なのだという。具体的にいえば、従業員たちに会社の将来的な方向性を託し、会社の未来に関心を抱いてもらい、その意見に耳を傾け、優れたアイデアに報酬を与えるのが目的というわけだ。ラヴォワは、自分やマリーノがかかわらなくてもイノベーションが自然と生まれる組織を作りたかった──そうすれば、経営者が常に正しい判断を下さなければならないという重荷から解放されるからだ。

 このようなアイデアを取り入れたライト・ソリューションズの市場は、正式には「イノベーション・エンジン」と呼ばれているが、通称では「ミューチュアル・ファン・マーケット」と呼ばれている。この市場では、ライト・ソリューションズの従業員なら誰でも、新しい製品、サービス、事業、テクノロジーや、既存の事業を効率化する方法を提案できる。社員の提案は「株式」となり、それぞれにティッカー・シンボルが与えられる。また、従来の目論見書の代わりに、「エクスペクタス」と呼ばれる説明文書が用意される(訳注/ライト・ソリューションズの社員は、株式を発行するにあたって、新しいアイデアの潜在価値についてまとめた文書を準備する。これは目論見書に相当するもので、同社では韻を踏んで「エクスペクタス〔Expect-Us〕」と呼ばれる)。いずれも遊び心のある名前だが、これが証券市場の一種であることを示す名前でもある。

(つづく)

*本書に解説を寄せた静岡大学情報学部 佐藤哲也准教授(自身も2007年から選挙予測サイト「shuugi.in」等を開設)による記事はこちら

ORACLES by Donald N. Thompson
Copyright (C) 2012 Harvard Business School Publishing Corporation
All rights reserved. Published by arrangement with Harvard Business Review Press, Watertown,Massachusetts through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

 

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【目次】
第1部  市場を使って予測する
第1章  まったく新しい商品開発の仕組み
第2章  予測市場とは何か
第3章  スポーツと映画を市場で予測する
第4章  選挙結果を市場で予測する
第5章  市場はどのように可能性を予測しているか
第6章  予測市場は何の代わりになりうるか?

第2部  予測市場を社内に作る
第7章  グーグル──会社のあらゆる部分が予測市場
第8章  ベスト・バイ──予測市場が導入されるまで
第9章  熱心な支持者が社内市場に命を授ける
第10章  トップダウンでもうまくいくのか

第3部  これからの予測市場
第11章 独創的に応用する──医療からレアル・マドリードの経営まで
第12章 国家の安全を守るために──テロリストの市場
第13章 効率的な行政──法定速度から結婚の是非まで
第14章 長期予測にはメリットがいっぱい

第4部  予測市場を機能させるには
第15章 答えを懼れる人々
第16章 無視された警告
第17章 潜水艦スコーピオン号はどこに沈んでいるのか
第18章 予言者になるために