事業ポートフォリオの構築

 ここまでの成功の原則は、自社の社会性を活用するタイプのものである。だがもう一つ、自社の社会性とは無関係だがひんぱんに観察される重要な成功原則がある。それは、事業ポートフォリオの構築による傾斜投資の実行である。

 途上国低所得層を対象としたビジネスは、多くの場合その事業単独で採算を確保するまでに数年(時に5年以上)を要することが多い。通常の事業選別基準では社内を説得しきれず、途中で継続投資が困難になるケースもある。その場合、より短期にキャッシュを稼得できるボリュームゾーンや富裕層向けビジネスを並行して営むことにより、その収益を包括的ビジネスに傾斜投資して継続性を担保しようとするものである。

 例えばグラミンダノン・フーズ社はその典型と言えよう。当初はバングラデシュの首都ダッカから数百キロ離れた低所得農村部で生産と販売を完結させる地産池消モデルを目指したが、やはり購買力不足からどうにも販売が伸びず、採算が取れない。そこで同社は首都ダッカのモダンチャネル(スーパーやコンビニ)への出荷を開始する。首都での差別価格策により、同社の採算は息を吹き返すのである。こうして結果的に複線型の事業ポートフォリオが組まれることになった。現在ではダッカ近郊に第2工場が設置され、事業トータルでの黒字化が視野に入っているという。

 ここまでの話を総合すると、経済性と社会性双方に重きを置く包括的ビジネスの成功のためには、当該事業単独の枠内での事業戦略(社会性の活用)と、包括的ビジネスを含む複数の事業の束としての企業戦略(事業ポートフォリオ)という2層構造で戦略を考える必要があることがわかる。この2層構造は、先進国市場における企業戦略と何ら異なるものではない。だが特にその事業戦略においては、自社の製品や事業プロセスの社会性活用が特に重要となる点に、包括的ビジネスの特徴がみられる。