ビジネスエコシステムの模倣困難性

 自社の社会性を活用することにより、企業は非伝統的なプレーヤー(ⅱ)を巻き込んでビジネスエコシステム(事業生態系)を形成し、自社がそこで中心的役割(キーストーン)を果たす(ⅲ)ことが可能である。この種の生態系は社会的複雑性(social complexity)が高く、時に経路依存性(path dependence)を有するため、潜在的競合に対する模倣困難性(inimitability)を帯びることになり、競争優位の源泉となり得る(ⅳ)。ここで言うビジネスエコシステムとは、その大部分が契約と信頼に基づいて、実質的排他性を帯びる関係の束であり、いわゆる社会的インフラとしてフリーライド可能なシステムと混同しないことが重要である。

 例えばヤマハ発動機は東アフリカのセネガルにおいて、これまでの手汲みによる非効率な水やりがもたらす農業生産性の低さに着目した。その改善をビジネススキームで推進するべく、同社はベルギーのNGOであるMECZOPのセネガル支部、イスラエルに本社がある点滴方式による超節水型灌漑技術(ドリップイリゲーション)を持つネタフィムジャパン、そして現地州政府の協力を得て、これらのプレーヤーを組み合わせたビジネスエコシステムを構築した。

 まず製品技術はヤマハの揚水ポンプとネタフィムの灌漑技術を組み合わせ、そのシステムをいったんMECZOPに販売、MECZOPが農業組合にリース販売する。そして拡販のための住民説明会と技術指導は州政府と共催でヤマハが行う。これら川上から川下に至る複層的な信用関係の連鎖で成り立つビジネスエコシステムは、それ自体が「社会的複雑性」を帯びており、潜在的競合が新たに参入しようとする際の模倣障壁にもなっている(ヤマハ発動機・西嶋良介氏談)