DeNAを辞めて起業するとは思っていなかったのに、なぜ学習サービスQuipperをはじめたか

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 しかし、逆に言えば、その難しさの原因をしっかり考え抜いて、上手に回避したり乗り越えたりしていけば、本来の相性のよさから考えて、一気にブレークする可能性もあるのだ。

 モバイルと、公文のようなドリル式と、ゲーミフィケーションなどの要素を組み合わせ、教え手が自由に利用できるオープンなモバイル学習プラットフォームを提供することで、これらの壁をブレークスルーできるのでは、と最初に考えついたのは2009年のことだ。

 僕は旅行が趣味で、学生時代も含めると30カ国以上を回った。その実感からも、超貧困地域や紛争地域に生まれたら、個人の力だけで抜け出すのは極めて難しいと考えている。しかし最近は、そういった地域でも青年層や壮年層は携帯端末だけは持つようになってきている。もし、その携帯に学習コンテンツを流し込むことができれば、学習機会の格差を世界規模で解消できる可能性があるのではないか。

 若い頃からどうしたら貧困をなくせるか、という夢のようなことを考えてはアイデアの糸口すら掴めず思考停止してきた。しかし端末、通信、ソーシャルなど各種インフラが出揃ったように見える現在、DeNAでの数多くの失敗で鍛えられた今の自分なら、新しいテクノロジーや他領域からのノウハウを活用しきることで、デジタル学習への入り口をこじ開けるぐらいはできるのではないかと思った。これがQuipperの起業の動機である。

 とまあ、ここまでしか普通は言わないようにしている。嘘ではないし、わかりやすいからだ。しかし、その崇高な使命感(と自分で言うのもどうかと思うが)だけが動機かと言えばそういうわけでもない。はっきりいえば事業モデルに対するマニアックな趣味の問題として、モバイル学習プラットフォームのコンセプトの美しさに、どうしようもなく心惹かれたというのがより正直な理由である。

 デジタルと本質的に相性がよいが、技術革新が起こったばかりで誰も成功していない保守的な巨大市場。近い将来その位置で誰かが成功することが確実。うまくいけば人の役に立つのはもちろん、莫大な収益もあがり、事業の性質からも長期磐石だろう。そして、これまで自分が苦しみながら得た知見をあますことなく直接的に生かすことができる。

 幾多のプレイヤーを跳ね返してきた難易度の高さすら、その時は乗り越えるのが楽しそうな裏山へのピクニックぐらいに見えた(実際にはK2やエベレスト並みだった)。

 あまりにも事業として面白そうすぎて、これは自分でやらないともったいない。そんな思いが高じて創業したのがQuipperである。

 次回はそんな挑戦を一緒にしているQuipperのチームについて紹介させて欲しい。
 

【連載バックナンバー】
第1回「DeNA起業に参加したのは南場さんと川田さんと珍道中を楽しみたかったから」
第2回「DeNAで山ほど失敗して学んだ新規事業企画のコツはないというコツ」

今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー