この方法を実践するのは難しい。私たちは問題に直面した時、積極的に策を講じるのが自然である。果敢に対処すればそれだけ安心を得られるからだ。

 しかし、こういう考え方もできる。ある問題を解決するために多くの時間、努力、お金を費やすとしよう。でもその問題は実質的に、時間や努力、お金では解決できない性質のものかもしれない。

 ニューヨークタイムズ紙の記事によれば、2009年に米国民は風邪、咳、のどの痛みを治療するための市販薬に約36億ドルを費やした。しかし、これらの薬が風邪の治癒や期間短縮に有効であるという証拠はほとんどない、と記事は結論づけている。さらに、一部の薬(抗生物質など)には症状を悪化させる副作用もあるという。

 つまり、一般的な風邪の症状に最も有効な対処法は、何もしないことであるともいえるのだ。

 これは薬以外についても当てはまるのだろうか。昨今、インセンティブを活用した新規事業の創出がよく話題にのぼっている。インセンティブに資金と労力をつぎ込むことは、有効なのだろうか。カウフマン財団が発表した研究結果によれば、答えはノーである。米国統計局のデータによれば、1977~2005年における毎年の起業数は、3~6%の差異しかない(つまり、毎年の起業数に大きな違いはなく安定している)。研究は次のように述べている。「起業の意思決定に関連すると思われる要素――不景気、好景気、税率の変動、人口の増加、資本の多寡、テクノロジーの進歩など――のいずれも、米国内の起業の頻度にさしたる影響を与えていない」

 つまり、新規事業の創出を促す最も有効な方法は、何もしないことであるといえる。

 では、対人関係はどうだろうか。少し前に、私はある身近な人物と仲違いをした。何度か改善を試みた――メールを送り、電話をかけ、贈り物さえした――が、どの方法でも両者の気が晴れることはなかった。やがて私は諦め、その人物を忘れることにして、長い間何もしなかった。

 そして最近、この人物に再会した。するとどういうわけか、仲違いは過去のことに思えた――まあ、完全にではないが。すれ違いが起こる前の仲には戻っていないものの、関係の修復に努めていた頃よりはずっと良好な関係になった。