ハーバードにおける「アントレプレナーシップ」の定義

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 必要な資源にアクセスできない状態で新しいチャンスを追求しているため、起業家は少なからぬリスクを背負っている。これらのリスクは、主に4つのタイプに分けることができる。「需要リスク」は、起業家が思い描くソリューションに対する見込み客の採用意欲と関係している。「技術リスク」は、ソリューションの実現に技術面や科学面でのブレークスルーが必要とされる場合には高くなる。「実行リスク 」は、ベンチャー事業計画を実行する従業員やパートナーを引き付ける起業家の能力と関係している。「資金調達リスク」は、外部資本を妥当な条件で利用できるか否かに関係している。これらの不確実性を管理することが、起業家の仕事となる。同時に、自分の行動ではどうにもならないリスクがあることも認識する必要がある。

 起業家は、逃れようのないジレンマに直面する。資源なしでリスクを軽減させるのは難しい。たとえば、製品開発と販売において外部資本が必要な場合、技術リスクと市場リスクが高くないことを示さなくてはならない。その一方で、リスクが依然高い状態にあるベンチャー事業に対して、出資者を口説き巻き込むのは難しい。起業家は、4つの戦術を用いてこのジレンマに立ち向かう。

●「実用最小限の製品(MVP)」――ビジネスモデル仮説の徹底検証に必要な、最小限の活動――を活用することで、無駄のない実験を通じて支出を抑えながら、リスクを迅速に解消できる。

●投資を段階的に行うことで、リスクに順番に対応できるようになる。特定の目標に対して必要な資源のみを費やし、次の目標の達成に必要な資源を投じてしまう事態を避ける。

●提携関係を結ぶことで、起業家はパートナーの資源を利用できるようになり、リスク負担に積極的かつ長じている相手にリスクを移転できる。この戦術では、資源を借り入れることでコストを変動費とし、資源の所有に伴う大きな固定支出を避けることができる。

●「ストーリーテリング」、つまり自身のベンチャー事業が世界をどう改善するかを伝えることで、出資者を魅了してリスクを気にかけないよう促し、より多くの資源を獲得できる。たとえば、スティーブ・ジョブズは有名な「現実歪曲フィールド」を通じて従業員、パートナー、そして投資家を魅了し、夢の実現に向けて桁外れな支援を獲得してきた。

 では、スティーブンソン教授のこの定義は、現実世界で実用的といえるのだろうか。2つの理由から私はイエスと答えたい。第1に、彼はアントレプレナーシップを独特の経営手法と捉えている。企業のライフサイクルのある一部分(例:スタートアップ)、あるいは個人の役割のひとつ(例:創業者)、もしくは個人的特質(例:リスク負担や独立に対する姿勢)に限定しているのではない。この考えに従うと、起業家は大企業を含むさまざまなタイプの組織に存在することになる。アントレプレナーシップは世界経済の発展の原動力であり、社会に好ましい変化をもたらす力であると考える人は、この考えに勇気づけられることだろう。

 第2に、この定義は起業家的行動の指針として、リスク管理と資源活用のための戦術を示している。私の元教え子に、意欲的な起業家に向けたアドバイスをお願いしたところ、次のような答えが返ってきた――「『コントロール可能な資源を超越して機会を追求すること』というのは、私が日々行っていることを見事に要約している。資源が足りていることは滅多にないので、創意工夫、創造性、機を見るに敏な姿勢、そして説得力が必要になる。この定義を重んじることは、私の仕事にプラスとなっている」


HBR.ORG原文:Entrepreneurship: A Working Definition January 10, 2013
 

トーマス R・アイゼンマン(Thomas R. Eisenmann)
ハーバード・ビジネススクールのハワード・H・スティーブンソン記念講座教授

 

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