リーダーが画期的なアイデアを促進するためには、タスクを遂行するだけのフォロワーを育てるのではなく、イノベーションを起こすコミュニティを構築するほうがよい。 もちろん、方向性とビジョンを定めることはリーダーの重要な役割である。しかし多くの場合、この役割ばかりが重視され、ほかの重要なことが犠牲にされている。イノベーションが目的である場合、道筋を決めてチームをそれに従わせることがリーダーの仕事であるというのは、理にかなっているとは言い難い。真に独創的なものを生み出そうとする場合、その道筋はほぼ常に不確実なものだ。従来型のリーダーシップでは機能しない。

 背後から指揮を執ることは、リーダーとしての責任を放棄するということではない。羊飼いは、最終的には必ず群れをひとつにまとめあげる。群れが遠くまで散らばった場合や危険に直面した場合には、杖で突いたり叩いたりすることもいとわない。リーダーは杖のかわりに、従業員の「集合天才」(collective genius)を利用する必要がある(集合天才とは、さまざまな専門分野において突出した才能を集めれば、1人の天才をも凌ぐことができるという考え方)。これを実行に移す際には、2つの重要な責任が伴う。

 第1に、リーダーはイノベーションに対する意欲を組織内に根付かせなくてはならない。これは基本的には、コミュニティを構築するということである。あるリーダーは、この役割を「人々が所属したいと思える世界を築く行為」と表現している。このコミュニティでは、メンバーは個人として評価され、自分よりも大きな何かに貢献する機会が与えられる。また、共通の目的と価値観があり、問題解決や共同作業に関する行動規則が共有される。目的の共有は人々に一体感をもたらし、イノベーションに尽力しようという意欲を生み出す。

 第2に、リーダーは、イノベーションのプロセスに取り組むために必要な組織能力を育成しなくてはならない。すなわち、創造的摩擦(知性的な会話や議論を通じてアイデアを生み出す能力)、創造的敏捷性(アイデアを迅速に検証し改良する能力)、そして創造的決意(統合的に意思決定を行う能力)である。

 背後から指揮を執ることに秀でたリーダーは、先頭に立つのが得意なリーダーとは性質が異なる。経営陣は、「集合天才」の力を生かせるリーダーを見出し、育成できているだろうか。


HBR.ORG原文:Leading from Behind May 5, 2010