たしかに、どちらも状況次第で正しいといえる。アップルは音楽のデジタル配信、スマートフォン、タブレットといった分野に最初に参入した企業ではなかったが、結局は成功した。最近のエコノミスト誌のコラムでは、「先行したイノベーター企業は、長期で見ると市場のたった7%しか獲得していない」という研究結果が紹介されていた。だが、先行企業が成功した例も数多くある。たとえば、アマゾンが電子書籍やクラウドサービスに早い段階で参入したことは、よい結果につながっているようだ。

 ここに、忘れてはならない重要なことがある。最終的には、中間地点で誰がトップを走っていたか、などということは誰も覚えていない。最初にゴールしたのは誰か、が問題なのだ。したがって、「最初に出発するべきだろうか」などと問うてはいけない。そうではなく、「画期的アイデアの実現を早めるにはどうするか」と問うべきなのだ。

 もしスティーブン・スピア教授が呼ぶところの「高速組織」、つまり絶えざる学習と改善を行う組織であるならば、市場で先行するメリットは大きいだろう。誰かが市場でこのタイプの先行者の真似をしても、それは過去の遺物の模倣にすぎなくなるからだ。高速組織はイノベーションを続ける限り、市場で先行することができる。そして競争優位になる。ある消費財メーカーの経営者が、データ分析によるその会社の理想的な市場シェアは60%だと教えてくれた。それだけあれば、その市場で十分な利益を上げることができ、同時に競合企業が莫大な販促費を使って、その商品カテゴリー全体を活性化させてくれるからだ。

 これは、スタートを切るのが遅かった企業には望みがない、ということではない。後発企業には、先行する競合が実際の市場で行った実験から学べる、という利点がある。競合が犯した間違いを避け、競合のソリューションを上回れるチャンスがある。

 だが、「最初の後発企業になりたい」という意図が「コア事業を再び優先したい」という意味であってはならない。イノベーションへの対応が戦略上必須となった時には、もう手遅れであることが多いからだ。イノベーションに取り組むだけの経営資源や組織力がない場合もある。成功の見込みが薄い、買収という最後の賭けを迫られることもあるだろう。

 だからいま、甲冑を身につけ弓矢の準備をしておこう。イノベーションの時は来ている。


HBR.ORG原文:First Mover or Fast Follower? June 14, 2012
 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。