多くのクライアントがPR活動やコミュニティ形成を重要なマーケティング手段だと考え始めた今こそ雑誌のような媒体はそのレリヴァンシーを活用して、今までとは違うビジネスができるようになると僕は思うのです。一部の欧米の雑誌の収入源は編集長による企業コンサルなど、その雑誌が持つ読者コミュニティへの深い造詣を換金することです。彼らが持っているレリヴァンシーを換金しているとも言えます。日本の雑誌も読者コミュニティを活用した商品開発や、ある商品ファンのためのコミュニティ形成などいろいろなビジネスの展開が可能なはずです。

 今すぐそういうビジネスをはじめればいいのに、と思うわけですが、なかなかうまくはいけません。広告スペースの販売が雑誌のマネタイズ手法としてあまりにもこの業界に定着してしまっているからです。雑誌の1ページに定価をつけて広告スペースとして販売するというビジネスモデルはとっても分かりやすい。だれでも売れるし、買うことができる。この分かりやすさのおかげでメディアビジネスは成功してきたという側面がもちろんあります。

 しかし出版社の広告営業の方とお話をしていると、このページを販売するというビジネスモデルに引きずられすぎているなと感じることがあります。たとえば、「御社の雑誌とケトルで組んでA社の商品開発を提案しませんか」という話を僕が出版社の方にしたとします。僕が考える報酬モデルはA社からのフィー(一定額の報酬)あるいは、開発された商品の売り上げに応じたコミッションです。しかし、残念ながら多くの媒体社の方が「その仕事をすると何ページの広告がはいるのですか」という反応なのです。ページというスペースが出版社の持つリソースを換金する単位になってしまっているのです。

 もちろん、クライアントさんは広告ページを購入してそこに広告を出稿することで課題解決をするケースもあります。雑誌はもっと別の形で企業の課題解決をすることが可能なはずです。ケトルはすでにいくつかの出版社とは実験的なビジネスに取り組んでいますが、スペースを売るだけでないサービスの提供がレリヴァンシーの高い媒体には可能だと確信しています。

 広告業界はかかったコスト(たとえば、メディアの料金やCMの制作実費)に特定のパーセンテージで連動するコミッションをクライアントに請求してきました。過去10年ほどのあいだ、かかったコストと連動しないフィーを請求するクリエイティブエージェンシーも増えてきました。彼らは一定額のフィーを請求することで、低コストでも効果的な提案をすることができるようになったわけです。

 フィービジネスをはじめた人たちも当初フィーの価格設定に関して試行錯誤したと思います。しかしクリエイティブエージェンシーが増えてきたことで一定の市場が形成されてきました。同様に媒体社が商品開発などに参画するためにはフィーによる対価の請求が必要になって来るでしょう。最初は価格設定の試行錯誤もあるでしょうが、雑誌編集部がクリエイティブエージェンシーの競合にさえなれると僕は思っています。(嶋浩一郎)