伝える広告から動かす広告へ

 以上、カンヌの歴史から広告コミュニケーションの潮流を、独断と偏見を交えながらも超特急で俯瞰してみましたが、少なくともこの10年間に広告コミュニケーションはものすごいスピードで変化をとげてきたことがわかっていただけたと思います。メディアやテクノロジーの進化や多様化、そして生活者の情報行動の変化に対して、試行錯誤を繰り返しながらも広告コミュニケーションは絶え間ない進化を遂げてきたと僕は思っています。

 ただ、もしもこの10年間の広告コミュニケーションの変化を、あえてひとことで表現するとすれば、「伝えるコミュニケーション」から「動かすコミュニケーション」に変化してきたということだと思います。つまり、マス4媒体を中心とする、広告枠に広告表現物を載せることでメッセージを伝えるという20世紀型の広告モデルから、マスからソーシャルまで多様なコミュニケーション手法の最適なものを組み合わせて、ターゲットにアクションを引き起こすことによる21世紀型の広告モデルへの変化です。

 伝えるだけでは人は必ずしも人は動かなくなってしまってしまった時代に、メッセージを伝える以外にも人を動かすオプションが次々開発されたということは、それ自体とてもポジティブなことなのではないかと僕らは思うのです。

必勝パターン=万能薬のない時代

 ただし、それを裏返して日本に当てはめると、2000年くらいまでこの国に存在していた広告コミュニケーションの「必勝パターン」が、今の時代なくなってしまったことを意味しているともいえます。僕らが入社した1990年代までは、ポテンシャルの高いターゲットを定めて、商品やサービスのポジショニングを策定し、魅力的なコンセプトを策定し、インパクトのあるコピーと広告表現を開発し、マス広告を主軸とした最適なメディアプランでそれを伝達し、店頭プロモーションでリマインドさせるという伝統的なマーケティングの必勝パターンが存在していました。この右肩上がりの経済を前提とした「最も効果的にメッセージを伝える必勝パターン」が効果を発揮するカテゴリーは今でもありますが、それだけでは解決できない課題がこの10年間で劇的に増えてしまったのです。

 そして、いまだ新たな広告モデルの必勝パターンは生まれていないと思います。前述したバイラルマーケティングも、プラットフォーム型コミュニケーションも、戦略PRも、ソーシャルメディアマーケティングも、それぞれが広告手法のイノベーションだとは思いますが、課題解決の一つのオプションにすぎず、次の必勝パターンではないと思いますし、必勝パターンは今後も生まれてこないと僕は考えています。

 そもそも全ての病気に効く万能薬なんて存在しないのではないでしょうか。10年前までは、企業側にも生活者側にもマス広告以外のオプションがなかったから、マス広告が万能薬のように扱われてきただけなのではないでしょうか。実際、僕らは全ての予算をマス広告につぎ込むこともあれば、全ての予算を広告以外の活動につぎこむこともあります。次の必勝パターンを追い求めるのではなく、さまざまな広告手法に精通し、その中で時代と課題に応じた最適なオプションをニュートラルにカスタマイズする。そこに広告コミュニケーションの健全な未来があるのだと思っています。(木村健太郎)