体験型コミュニケーションとメディアの多様化

 それから2~3年は、マス4媒体以外のそれまで脇役だったメディアや、広告媒体以外のさまざまな接点を使った「体験型コミュニケーション」が、カンヌの主役に躍り出ました。ターゲットの生活導線上に、広告だと気づかれずにブランド体験を埋め込んでいく「アンビエント広告」や、それまで広告媒体でなかった場所を広告に変えてしまう「クリエイティブメディア」などです。

 2006年には、それまで消費者にはなんの意味をももたなかった商品パッケージ上の無味乾燥なバーコードに楽しいデザインを当てはめることで、パッケージに新しいブランド体験をもたらした「デザインバーコード」という日本からの出品作がチタニウム部門でグランプリをとりました。これはまさに「こんなところもメディアになるんだ」というメディアの多様化というトレンドを象徴する出来事でした。そしてこのように多様化したメディアを組み合わせて最適なキャンペーンを構築する「インテグレートキャンペーン」というモデルが、広告枠に広告表現を乗せるそれまでの単体広告に変わって主流になっていきます。

バイラルマーケティングの大ブーム

 このプッシュ型アドからプル型コンテンツへという流れと、メディアの多様化という流れが組み合わさったのが、2006年に端を発する「バイラルマーケティング」の大ブームです。ちょうどこの年は、GoogleがYouTubeを買収した年。ユーザー発のコンテンツ、あるいは、ユーザーが作ったかのように見せかけたバイラルムービーが、ネット上でバズとなって、媒体費をほとんどかけずに一気に広がっていく仕組みが各国で生まれ、カンヌを席巻しました。僕は、これが現在のソーシャルメディアマーケティングの起点になっていると思います。

 これに前後して日本でも「WEB2.0」という言葉が生まれ、広告業界では「マスからウェブへ」と声高に叫ばれていました。メーカー発信の広告メッセージは信用されない。これからは情報の主権を握るのは生活者であると。この時期に、ウェブ系の人は「マスは死んだ」と主張し、マス広告側の人は「ウェブは儲からない」と主張する、そんな不毛な議論が行われ始めたのです。

 私事で恐縮ですが、博報堂ケトルを設立したのも2006年。既存の広告手法にとらわれないコミュニケーションの手口で企業や社会の課題を解決する「手口ニュートラル」というコンセプトで会社を作ったので、メディアはこぞって僕らのことを「脱マスの流れを加速させる新会社」と書きました。僕たちには全くその気はなく、むしろ課題解決のオプションがマス4媒体からウェブまで格段に増えたことを素直に喜んでいたので、ちょっと当惑したのを覚えています。