それでも、より詳しく調べてみると、『ビジョナリー・カンパニー』が高く評価した企業のうちの何社かについては、問題点が明らかになった。先ごろ出版されたCreative Destruction(邦訳『創造的破壊』柏木亮二訳、翔泳社)に描かれているとおり、『ビジョナリー・カンパニー』が絶賛した企業のうちの何社かは、その企業自体ではなく産業全体が好調だったために繁栄できたのである(15)。一例としてヒューレット・パッカード(HP)は、長期にわたって市場全体を上回る業績を上げつづけ、「ビジョナリー・カンパニー」の基準を満たした。しかし実は、HPが市場を席巻しているあいだ、コンピュータ・ハードウェア業界全体も同じく好調だった。しかも、HPは必ずしも同業他社よりも高い業績を上げていたわけではない。このような事例をもとに『創造的破壊』は、つねに市場を上回る業績を上げる真の「ビジョナリー・カンパニー」は果たして存在したのか、と疑問を投げかけている。1970年代末から80年代初めにかけては、日本企業が飛ぶ鳥を落とす勢いを見せ、その戦略は「革命的」とまで称えられたが、誰もが知るように、日本企業も最近では伸び悩んだり、下り坂にさしかかったりしている。

 かりに好業績は永続せず、あるときは燦然と輝いていた企業が時が変われば迷走するのであれば、好業績やブルー・オーシャンの源を探ろうとする際に、企業を分析単位にすえたのでは的外れだと考えられる。

 すでに述べたとおり、過去を振り返ってみると、新しい産業が次々と生まれ、時とともに拡大していくため、業界の状況や垣根はけっして一定ではないのだとわかる。そして単一企業がそのような動きを決定づける場合もある。企業は、業界の現状を受け入れてその土俵で他社と正面から戦う必要はない。シルク・ドゥ・ソレイユは娯楽セクターで新しい市場空間を切り開き、その結果、利益を上げながら力強い成長を遂げてきた。このように、利益ある成長の源泉を探るうえでは、企業、産業ともに分析単位としてふさわしくないようである。

 以上述べてきた点とも一致するのだが、筆者たちの調査からは、ブルー・オーシャンの誕生や好業績の持続を説明するうえで、企業や産業よりもむしろ戦略的な打ち手を分析の単位とするのが望ましい、と判明した。戦略的な打ち手とは、製品やサービスを投入して新しい市場を開拓するのにともなう、一連の行動や判断をさす。コンパックは2001年にHPによって買収され、独立企業としての歴史に幕を下ろしたため、コンパックに負け組の烙印を押す人々も少なくないかもしれない。しかし、コンパックはサーバー業界というブルー・オーシャンを生み出しており、この戦略的な打ち手の価値は色褪せはしない。この戦略的打ち手によってコンパックは、1990年代半ばに目の覚めるような再生を遂げたばかりか、コンピューティングの世界で数十億ドル規模の新しい市場空間を生み出したのだ。

(書籍『ブルー・オーシャン戦略』に収録されている)巻末資料A「ブルー・オーシャン創造の歴史的形態」では、自動車、コンピュータ、映画館という、筆者たちのデータベースから引き出した、アメリカの主だった産業三つの軌跡をたどってみた(ちなみに自動車は職場への足、コンピュータは職場でのツール、映画は仕事後の息抜きである)。巻末資料Aからもわかるように、企業にせよ、産業にせよ、時代を超えて輝きを放ちつづけることはできない。ところが、ブルー・オーシャンを生み出し、利益をともないながら力強い成長を実現した戦略は、どれも驚くほど似通っているように見受けられる。