「枠」の概念から放れて、やるべきことは何か

「枠」に代わり、希少になるものは何でしょうか。

田端:生活者のアテンション(注目)や、信頼だと思います。

 アップルはアテンションを操るのが非常に上手ですね。新製品の発表まで厳格に情報を隠し、CEOがプレゼンして披露して、発売日には徹夜の行列ができる。こういうアテンションを集めるのがうまい企業がマーケティング・コミュニケーションがうまい企業ということになります。人々の希少なアテンションをどうやって獲得するか。しかも、継続的にアテンションを集め続けるには、それが見かけ倒しのハッタリや花火的な意味での期待感だけでなく、実際に納得感をもたらし、事前のアテンションを事後での信頼にもつなげていくことが、求められています。

田端さんが、本誌の7月号(6月10日発売)で書かれている「アンコントローラブル」という概念は、アテンションを集めるためにも重要になるんですか?

田端:そもそも、人々のアテンションって、そう簡単にはコントロールできないですよね。大通りで、大声を出すだけでは、いまや誰も聞いてくれない時代です。皆が好きに情報を選択できる時代ですから。 アップルの場合、このようなコントロールできないアテンションをかなり上手にコントロールする点が、マーケティングから見ての凄さでしょうね。「枠」の発想では、人のアテンションは獲得できないでしょうか。

 ポータルサイトのトップページに広告を出しても、決して皆が認知してくれるわけではないですよね?そして情報の主導権は消費者が握っています。企業が狙った通りの文脈で情報をコントロールするのは、ものすごく難しい時代になっています。そのような中で、アテンションを得るには、アンコントローラブルなものをどのようにコントロールしていくか。言葉としては矛盾に満ちていますが、その試みが重要になります。

情報がアンコントローラブルな時代になって、何をすればいいんでしょう。

田端:それはまだ僕にもわかりません。こうすればいいと言い切れるものはないんです。

 結局、怖がらずにコントロールできない世界に飛び込んでいくしかないんじゃないでしょうか。正直、アンコントローラブルな状況で情報を発信するのは、ちょっぴり怖いですよ、僕でも。でもせめて少しでも慣れ始めた方がいいですよね。怖がらずにやってみる。

 非常に下世話な喩で恐縮ですが、いまや消費者心理は女心みたいなところがあります。企業はコントロールできないんです。でも簡単にデートしてくれないかもしれないですが、女性に慣れないといけないですね(笑)。どう受け止められるかわからずに怖がっていては始まらないです。声をかけても、無視されたりフラれたりするかもしれません。だからと言って、合コンにもいかずパーティに言っても声をかけなければ、付き合ってもらえませんよね。

 これまでは、企業と消費者の出会いに世話を焼く、お見合いオバさんみたいなマスメディアや広告代理店がいてくれました(笑)。でも、もうそういう人がいないとすれば、自分でやるしかないんですよ。恥すかしいかもしれないけど、慣れないと一生できないんです。少しずつでもやってみて、慣れていくしかないんです。

その喩は分かりやすいです。なるほど、最初の一歩を踏み出す勇気が大きいですね。

田端:いまはそういう意味では、一歩を踏み出して少しずつ慣れだした企業と、いまだに一歩を踏み出せないままの企業とが大きく二分されているような気がします。

 僕のやっているLINEや他のSNSもそうなんですが、新しいメディアを最初に試してみようとする企業は、ローソン、あと外資系のコカコーラやP&Gなどいつも同じ顔ぶれです(笑)。

 これらの企業はさまざまな取り組みをしていて、なかにはあまりうまくいかなかったこともあるでしょう。でも大きな失敗をしなければ、ノウハウを溜める貴重な機会になるんです。そんな経験の差がいまでは成果として反映される部分が小さいかもしれませんが、経験やノウハウの差は、他者と比べて随分と開いているように見受けられます。だから近い将来、マーケティング上の成果の点で非常に大きな差につながるんじゃないでしょうか。

 いまトライ&エラーをいま重ねている企業が自力を日々つけているので、将来は非常に大きな強みを持つのではないでしょうか。

トヨタの改善活動のように、継続することによって、気がついたら非常に大きな競争優位になるんですね。

田端:トライ&エラーを繰り返している広告主は僕らから見ても、とても手強い顧客ですね。やろうとしていることが明確なので、こちらへの要求も厳しいですし、ハッタリは利きません。逆にこちらもやりがいがあり、学ぶことも多いです。

 そうじゃない会社は、おっとりしているというか「皆さん、凄いですね〜」と言いながら、「でも、私たちにはできません」「上司と相談します」「社内で検討します」とかばかり言っている(笑)。でも、やってみることって、そんなに難しいことじゃないんです。できない理由ってほとんどないと思うんです。

 やってみようとしない会社はとてももったいないと思います。いまチャンスがあるんですから。