これは、おそらく、いわゆる「市営モンロー主義」の結果でもあろう。大阪市内の交通は、営利企業に任せないで、大阪市民の利益が最大となるよう大阪市営にて行なうという方針のために、民間鉄道会社の大阪市内交通への参入が規制されてきた。大阪市ほどの経済規模と人口を持つ都市の交通を独占できれば、健全な財務体質を維持しつつ、利益を計上できている現状は驚くにあたらない。

3.民営化のメリット

 このような健全な事業であれば、民営化が議論されるのはごく自然なことである。地下鉄事業は、通常の鉄道事業と比べても、建設コストが高額になるので、事業の初期は、税金で支援されたり、パブリック・セクターが直接事業運営したりすることが多い。東京の地下鉄の多くを運営する東京メトロ(旧帝都高速度交通営団)も国や都の援助を受けてきたし、東京都も都営地下鉄を運営してきた。大阪市営地下鉄も、大阪市が直接手がける事業である。

 しかし、利用者数の多い都市部の地下鉄は、いったん開業してしまえば、毎日安定的なキャッシュ・フローが見込める。このキャッシュ・フローで、地下鉄建設にかかった有利子負債を返済していけば、支払利息が少しずつ減少していき、やがて単年度黒字を達成し、黒字が続けば累積欠損金が解消される。東京メトロや大阪市営地下鉄は、すでに、このステージまで進んだということである。

 地下鉄事業の初期は税金で支援し、利益が見込める段階になったら民営化というのでは、税金を投入した事業を一部の民間業者に譲り渡すことになるという批判もあるかもしれない。確かに、優良事業となった地下鉄事業を、一部民間業者に「不当な安値で」売却すれば、この批判も当てはまる。しかしながら、地下鉄事業を「適正価格で」売却するなら、この批判は当てはまらないだろう。

 地下鉄建設のために今まで投入してきた税金を、地下鉄事業民営化・株式売却によって現金で回収できるだけでなく、将来性ある地下鉄事業に育てた成果を得ることもできる。2012年12月に公表された大阪市の「地下鉄事業民営化基本方針(素案)」によれば、当面は市が100パーセント出資の株式会社というかたちで運営し、将来的には株式上場を目指すとのことなので、上場にあたって株式価格が適正に評価されれば、大阪市民の貴重な財産が「不当な安値で」売却されることにはならないだろう。むしろ、上場以前の段階で、企業価値評価による価格で、一部民間業者に相対で売却されることを畏れるべきである。

 大阪市営地下鉄民営化の直接的なメリットの一つは、事業に関わる人々が公務員でなくなり、民間企業の従業員になるということである。公務員であれば、従わなければならない法律や規則が多くあり、将来の地下鉄需要を予測し、リスクを取って、スピード感をもって経営にあたることは難しい。民間企業になれば、意思決定、資金調達、組織編成などの自由度が大きくなって効率性が増すだろう。そのことを株式市場が予測すれば、将来の株式上場時に回収される金額が大きくなるので、大阪市民にとってメリットになる(もちろん、大阪市営地下鉄で働いている人のうち、公務員を続けたい人がいれば、そういう人にはデメリットになる。この点、労働組合と誠意ある対話が必要だろう)。