2.大阪市営地下鉄の財務状況

 しかし、民営化にあたっては、大阪市営地下鉄の財政状態・経営成績が問題となる。よほど将来に明るい見通しがないかぎり、業績の悪い事業の民営化は難しいし、地下鉄のように莫大な建設費がかかる事業は、巨額の有利子負債を抱えていることが多いので、その返済のメドが立たないかぎり、やはり株式の引き取り手が現われないからである。大阪市営地下鉄のケースではどうだろうか。次にこの点を見てみよう。

       (図1)大阪市営地下鉄・2012年3月期の財務諸表


 大阪市営地下鉄の正式な名前は、大阪市交通局が管轄する高速鉄道事業会計である。このほか、同じように交通局が管轄する自動車運送事業会計もある。こちらは、バス事業のための会計である。ここでは、高速鉄道事業会計に集中しよう。

 大阪市営地下鉄は、地方公営企業法にもとづく財務諸表を作成することに加えて、2006年度決算から自主的に企業会計の方式による財務諸表をアニュアル・レポートで報告してきた。ただ、2008年度決算からは、総務省が要請する新公会計制度にもとづく財務諸表に切り替えている。この新公会計制度にもとづく財務諸表は、企業会計方式と細部において微妙にちがってはいるものの、本質的には企業会計方式と同じものと考えていい。この新公会計制度による財務諸表を視覚化してみたのが、図1である(ただし、純経常行政コストの赤字というのはわかりにくいので、通常通り「経常利益」としてある)。

 地下鉄という典型的なインフラ系の事業であるだけに、財務諸表も一見してわかるとおりインフラ系の特徴を示している。大きな貸借対照表に小さな損益計算書、そして、貸借対照表のほとんどを有形固定資産が占めている。

 また、この財務諸表は、企業会計方式に近いやり方で作成されているとはいっても、国庫補助金・府補助金・一般会計補助金・工事負担金などが、資本剰余金に計上されているという意味では特殊である。こうした資本剰余金が、概ね3380億円程度もあるらしい。もし、これらの補助金等が圧縮記帳(圧縮記帳については第4回参照)されて、有形固定資産の帳簿価額を減額していたとしたら、すでに減価償却された分は利益剰余金になっているはずである。

 圧縮記帳というのは、受け入れた補助金などを有形固定資産の取得原価(買ったときの値段)から引く手続きのことである。補助金の分だけ、有形固定資産の取得原価が小さくなるので、その有形固定資産を使っている期間、減価償却費が少なく計上され、その分、利益が大きく計上される。よって、資本剰余金に計上されている補助金などが、民間企業のように圧縮記帳されていたとしたら、減価償却が終わった分については、利益剰余金になっていると考えられる。したがって、見掛けほど有形固定資産は多くはないし、見掛けほど純資産が分厚いわけでもないといってよい。

 しかし、たとえこれらの点を考慮に入れたとしても、大阪市営地下鉄が公営地下鉄の中では、相対的に優良な財政状態にあることは間違いなさそうである。

 次に、巨額の建設コストのかかる地下鉄事業の場合、それをファイナンスする有利子負債の返済がどの程度進んでいるか、支払利息の負担はどの程度かという点が関心事となる。大阪市営地下鉄のケースでは、期末有利子負債5976億円に対して、支払利息は173億円である。

 経常利益は200億円あるので、現状レベルの補助金が維持されるとすれば、1パーセントや2パーセント程度の金利上昇で、損失を計上する可能性は低いだろう。同じように、民営化によって、大阪市の信用保証がなくなり、金利が切り上がるとしても、黒字を維持する可能性が高いと考える。地下鉄事業は、2005年度に黒字転換し、2010年度には累積欠損金を解消しており、事業の採算性はかなり安定しているといえる。