進出のきっかけとなる出来事

 上述のモデルはあくまでBOPに何の関わりもなかった企業のケースであり、実際には全くのゼロベースで上記のような意思決定がなされることはまれかもしれない。筆者が見聞した多くの場合、BOP層を含む市場への参入は、そのきっかけとなる出来事が事前に発生していたり、他の所得セグメントと抱き合わせで進出するケースも多い。たとえば、

1)サンヨー(現パナソニックグループ)のソーラーランタン(ウガンダ他):同国の大臣から同社の技術を活用して非電化地域の状況改善に力を貸してほしい、というレターがすでに届いていた。

2)日本ポリグルの水浄化剤:2007年にバングラデッシュ発生したサイクロンにより、被災地では飲料水が枯渇していた。現地からの要請で送ったサンプルが簡便性と効果で評判になったことがきっかけ。

3)サニコンの浄水装置および関連ビジネス(ベトナム):たまたま同国からの留学生をインターンとして受け入れたところ、その学生の熱意と政府への人脈で進出が成功。(筆者注:途上国からのインターン希望はその人の背景をよく聴いた上で、無碍に断らないほうがよい。)

4)フマキラー・インドネシア:当初は蚊取り線香のみを全市場に販売。しかし技術と経済の進展とともに、中間層富裕層には液剤ベースのスプレーやマット、リキッドを、低所得層にはそのまま蚊取り線香を、とセグメントを分けて対応。

5)ヤクルト・インドネシア:もともと低所得層にはヤクルトレディによる訪問販売中心で、なじみ客維持と市場開拓を展開、中間層以上にはモダンチャネル(スーパー、コンビニ等)で販売。

 他にも多くの事例があるが(特に3は要注目である。潜在性の高い市場からのインターン受け入れが契機となった進出例は複数遭遇している)、ちょっとしたきっかけで一挙に進出候補地が絞られることもある。

 こうして、進出先と事業の概要(誰を対象市場に、どのような製品・サービスを提供したいのか)が決まると、いよいよ具体的なビジネスモデルの構築を行う。次回は、BOP領域でビジネスモデルの構築を行う場合に、われわれが慣れ親しんでいる既存の先進国市場におけるビジネスと、何が同じで何が違うのか、について話を進めよう。

 

(注1)Hamel & Prahalad (1989) "Strategic Intent: To revitalize corporate performance, we need a whole new model of strategy" Harvard Business Review, May-June, 1989. 自社の経営資源の現時点の賦存状況にこだわらず、自社が目指す将来の姿を「意図・野心・執念」として持続的に抱き、その将来にアプローチするために資源や能力を獲得すること。

(注2)ここでいう社会課題とは、主に国連によって設定されているミレニアム開発目標の1から7:極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の完全普及の達成、ジェンダー平等推進と女性の地位向上、乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止、環境の持続可能性確保、およびそれに類するゴール、例えばJICAの言う保健・衛生・医療、水資源・防災、水供給、教育・職業訓練、運輸交通、情報通信、エネルギー、農業・農村開発、自然環境保全、環境管理、ジェンダー、金融サービス等を指す。