初期段階の意思決定ステップ

 本稿では、上記の事業化プロセスの最も初期の段階よりも、さらに前の段階を検討対象としたい。というのも多くの企業が、いまだ途上国の低所得層をそもそも自社事業と何らかの関わり(それが顧客であれ、供給者であれ、従業員であれ、パートナーであれ)を持ち得るとすら認識していないからだ。第3回で紹介したアンケートによれば、実に日本企業の69.8%が「現在、対象市場として考えていない」と回答し、「すでに進行中である」は3.5%にすぎないのである。

 この「市場として考慮せず」という企業群の中に、十分な調査を経た上で何らかの経営環境に重大な限界か、自社の経営資源と対象市場との不整合を見出した企業があるとすれば、それは進出せずという意思決定が下されるべきだ。

 だが、そもそも認知限界や単純な情報不足、もしくは一般的な途上国へのステレオタイプなイメージ(貧困、インフラ不足、劣悪な労働環境)から、途上国低所得層市場の潜在性をそもそも考慮対象にできていない、または自らは関わりたくないと考えるケースもあるだろう(このご時勢にそんな意識の経営幹部がいるわけなかろう!というご意見もあるかもしれない。しかし、私自身がそうした意識の幹部に複数遭遇したという経験に基づいて書いている)。

 特に本稿が注目するのは後者のケース、つまり途上国低所得層市場を評価の俎上にすら載せていないケースである。もしも、この単に「よく知らない対象への無意識の忌避感」という理由のみで、途上国の潜在性に目も耳もそむけてしまっている状況があるとすれば、経営者としては既存の慣れ親しんだ市場(心地よい領域)の延長線上に立った発想を変え、「文字通り地球規模大」の視点から今一度世界各国の市場を見つめ直す必要があるだろう。

 その際、以下のようなステップが例示的に考えられる(概略図は下記)。

1)自社の創業理念やミッションの再確認(そもそもわが社は社会のいかなるニーズに応えるために創業され、現在存在しているのか)

2)ミッションの下で、現在全社及び個別事業レベルでわが社はいかなる「戦略的意図(strategic intent) 注1」の下に、事業活動を遂行しているのか。

3)上記の存在理由の下で、自社にはどのような経営能力(capabilities)や経営資源(resources)、ひいてはコアコンピタンス(競争力の源泉となる全社レベルの無形資産)が蓄積されているのだろうか。そして自社の「ドミナント・ロジック(自社が最も得意とするビジネスのパターン」は何か。

4)途上国低所得層(40億人超)の抱える社会的ニーズ・課題(例えばMDGsやJICAの指摘する社会課題:注2)の中で、自社の資源・能力・ロジック・コンピタンスがソリューションを提供できるものはあるか。

5)上記に該当する社会課題があるとすれば、その課題は地球上のどの国で解決度が低い(潜在ニーズが大)か。(第一次候補地選択)

6)上記課題を解決しようとする意図・意欲(それが経済的意欲であれ、社会的意欲であれ、その双方であれ)は自社にあるか。

7)第一次候補地に対して国の政体、経済・貨幣価値、治安の安定性(戦争状態にない)など、最低限の事業環境が存在するかを専門家や利用可能な情報に基づいて評価し、第2次候補地に絞る。それらの地域に対して現地調査を開始し、事業構想、事業計画の作成へと進む。(これ以降、JICAやJETROの想定する事業プロセスへと進んでいく。)

(図)候補地選択のステップ