アタックNeoの市場導入

 花王のアタックNeoは、2009年に発売されたコンパクト液体洗剤です。液体洗剤の市場は、2000年頃から拡大傾向にあったのですが、花王は独自技術を用いて液体洗剤の濃縮化に取り組み、すすぎの回数を減らすことができるようにするなど、画期的な特性をもつ新製品を生み出しました。

「時短」効果を前面に打ち出し消費者に訴求した「花王アタックNeo」

 とはいえ、この新製品の「少量でも汚れを確実に落とせて、すすぎが1回でも泡切れがよく、コンパクトで使いやすい」という特性を、どのような消費者の価値観や生活シーンにぶつけていけばよいかは、花王にとっての大きな問題でした。

 花王は、消費者との対話を入念に行っています。一般的な公開データに加えて、アンケート調査、デプス・インタビュー、家庭訪問調査、プロトタイプの試用調査などによって収集した独自データ、さらには購買後の顧客からの寄せられた意見や問い合わせ情報など、多くのデータが集められました。

 これらのデータから、花王は、アタックNeoの市場導入に先だって、消費者の傾向を次のようにつかんでいました。「環境のために取り組みたい」という消費者が多数派である一方で、「エコ商品は高くつき、経済的なことを考えると買えない」「環境によいというが、どの程度よいかが分かりにくい」といった声も多く聞かれました。また、調査では、「水道代、電気代を減らしたい」「洗濯にかかる時間を短くしたい」という意見も多く聞かれたといいます。

 こうした傾向を踏まえて、発売時のアタックNeoのパッケージでは、「少量でも抜群の洗浄力」「すすぎ1回」「節水・節電」という訴求が行われることになったのです。

なぜ、新しいアイコンを採用したか

 発売後に幾度かのリニューアルを重ねて、現在ではアタックNeoは「節水」「節電」「時短」の3つの効果がパッケージ上のアイコンでうたわれています。この3つの効果のなかで、当初は大きく訴求されていなかったのが「時短」です。

 なぜ「時短」のアイコンが加わったのでしょうか。この「時短」のアイコンは、発売後に寄せられた顧客の意見を踏まえて採用されたといいます。

 ではどうして、洗濯時間が短くなることへの評価が高かったのでしょうか。考えてみると、節水や節電、あるいは洗浄力などは、使ってみてすぐに効果を実感できるわけではありません。これらの効果については、水道料金や電気料金の請求書を見たり、汚れのひどい洗濯物を洗ってみたりして、はじめて実感できるわけです。これに対して、洗濯時間の短縮は、使ってみてすぐに実感できます。こうした生活シーンのなかでの顧客の行動や思考への理解が、この新しいアイコン導入の背景にはあるのです。

 花王のアタックNeoの事例では、はとバスとは異なり、大規模な市場調査と高度な分析が繰り返し行われています。しかしここでも、データの背後にある人間の行動や思考を読み解こうとする姿勢の大切さは変わりません。洗濯時間の短縮を評価する声がなぜ寄せられたかを、使用シーンを踏まえて読み解いていくことで、データはインサイトに転じます。これが解釈の力なのです。