このマーケティング改革のなかから、名所旧跡を効率よく回ることに主眼を置いた従前のコースとは一味も二味も違う定期観光バスのコースが次々と生まれました。たとえば「江戸味覚食い倒れツアー」は、朝食から築地で寿司を食べ、昼食は浅草でてんぷら、夕食は柴又でうな重を味わうという、食事に特化したコースです。「講談師と行く花のお江戸義士コース」という、バスガイドに代わって講談師が同乗し、討ち入りが行われた吉良邸跡などを散策するコースもあります。「東京、ただ今工事中。」は、当時建築中だった東京スカイツリーや東京ゲートブリッジを回るコースです。

「江戸味覚食い倒れツアー」など、ユニークな商品企画で首都圏の在住者を取り込んだ「はとバス」

 これらのテーマ性や非日常な体験を重視したコースは、首都圏在住者をメインターゲットにしています。東京観光というと、利用者は地方からの旅行者が多いように思われるかもしれません。かつては、はとバスの社内でも、地方からの利用者が大半を占めているとの認識だったといいます。ところが企画担当者が調べてみると、約半数は首都圏からの利用者だったそうです。この見逃していた大きな市場の発見が、ツアー企画に新たな方向性を示すことになったわけです。

 では、この発見は、どのようなデータから生まれたのでしょうか。それは、予約受付時に確認していた連絡先の電話番号だったといいます。多少の不正確さに目をつぶれば、その市外番号を見ていけば、ツアーの申込者の居住地の傾向をつかむことができます。このように社内に眠っていたデータに新たな視点から解釈をほどこすことで、はとバスは新たなツアー企画の方向性を確立していったのです。

運行プログラムの改善

 加えて、はとバスのマーケティング改革では、企画の独自性の追求だけではなく、従来のコースの運行上の問題点の見直しも行われました。

 その一環として、地方からの利用者が多いコースについては、「はとバスに乗ることを主目的に東京観光に来る人はいない」との認識にもとづき、ツアーの開始時間や終了時間の変更などが行われました。ディズニーランドで遊ぶなど、他の目的で東京に来た人が、隙間の時間ではとバスに乗ることを考慮して、利用しやすい時間設定や料金設定などに切り替えたのです。

 では、この認識は、どのようなデータから生まれたのでしょうか。これについては、各ツアーの発売後の予約率の推移を見ていた企画担当者が、ツアーの日の直近になってから大半の予約が埋まるのを見て、はとバスに乗る日を早々と決める人は少ないことに気づいたといいます。

 このように、はとバスの改革を導いた重要な発見や認識は、データとの対話のなかから生まれています。はとバスの再生は、思いつきのユニークさや改善ではなく、データに裏付けられたアクションから生まれています。

 しかし、はとバスでは、これらのデータを入手するための大がかりな調査は行われていません。その代わりに、はとバスでは、業務上の必要性から以前より入手していたデータがうまく使い回されています。

 データは使いようです。見慣れたデータであっても、その背後にある利用者の存在に思いをはせることで、新たな認識を確立できることがあります。はとバスの事例から気づかされるのは、データの背後にある利用者の行動や思考を読み解こうとする姿勢、あるいは解釈の大切さです。