2.顧客を製作に巻き込むことで、購入してもらう

 販促を目的としてコミュニティをつくることは、いま注目されているテーマであるが、本質的に疑わしくもある。顧客体験の向上を目的としてコミュニティを築くほうが、ずっと魅力的だ。数年前、玩具メーカーのレゴはマサチューセッツ工科大学のエンジニアたちと協力して、レゴブロックで組み立てた作品を動かせるようにするソフトウエアとモーター部品を開発した。つまり、顧客は事実上ロボットをつくれるようになったのである。販売されると、この製品は手堅いヒットとなった。しかし、まったく予想しなかったことも起こった。数週間のうちに1000人近くの部外者がソフトウエアを改ざんし、さらには書き換えたコードを交換するための独自のコミュニティまでつくっていたのである。多くの企業にとって、こうした事態は製品と知的所有権を侵害する悪夢といえるだろう(ソニーはロボットの新製品に対して同様の事態が起こったとき、即座に訴訟を起こした)。

 しかしレゴの幹部は、「ハッカー」たちが行っている改ざんが製品を大きく改善させていることに気づいた。そして顧客もそのことに気づいていた。そこで同社は、こうした活動を支援しようと決めた。いまではユーザーのコミュニティ(http://mindstorms.lego.com/en-us/default.aspx)には数万人がいて、驚くほど多種多様なロボットがつくられている。これは社内の7名の開発者だけで考え出せるバリエーションをはるかに超えている(もちろん、開発者を批判しているのではない)。エリック・フォン・ヒッペルはMITのエンジニアとして、こんな皮肉を述べている。「私はMIT出身だから、計算はできる。1000人は7人よりもかなり多い」

 結果的に、レゴは自社のポジショニングを変えることになった。セールスフォース・ドットコムがソフトウエア企業からプラットフォーム企業へと変わったのと同様に、レゴはもはや自社を玩具メーカーではなく、玩具パブリッシャー (玩具製品の拡散者)と見なしている。同社のすべての製品ラインとソフトウエアは、ツールキットあるいはプラットフォームとして機能する。これによってクリエイティブな顧客たちは、企業から押しつけられた製品ではなく、自分が本当に欲しい玩具をつくれるのだ。

3.自社のイノベーション能力を再考する

 レゴの例からもわかるように、自社のターゲット市場が急成長していて顧客基盤も大きく多様である場合、市場を理解するために社内のたった数人の製品開発担当者に頼るのは賢明ではない。実際、製品開発だけでなくマーケティングと販売の担当者も、顧客を日々のプロセスにどれだけ巻き込み、イノベーションをサポートしてもらえるかで評価されるようになってきている。これにより、いっそう優れた顧客体験を生み出せるようになる。さらに企業は、外部者ではなく社内の担当者のみが付加価値を創造できる分野――生産や流通など――に経営資源を集中的に投入できるようになる。

 保険会社のアフラックは7万人の営業担当者のために、十数種類の携帯電話用アプリを開発した。これらのアプリを使って営業部員は社外から、アフラックの顧客データベースや契約情報、請求情報などにアクセスできるようになった。コンピュータに縛られたり、コールセンターに電話をかけたりする必要がなくなったのだ。これにより営業活動の生産性が上がり、コストも削減できて、アフラックには多大なメリットが生じた。コールセンターにかかってくる電話が減った分、そこの担当者は顧客への対応や保険請求の処理により多くの時間を費やすことができるようになったからだ。