6.都営地下鉄が抱える金利上昇と収益減少のリスク

 ただし、以上の試算は、都営地下鉄に対してかなり有利な評価になっている可能性に注意する必要がある。まず、都営地下鉄は債務比率が高い。債務比率が高いと財務リスクが高くなるので、株主が期待するリターンが高くなり、株式時価総額は単純なマルチプル法が想定するよりも下がるはずである。

 都営地下鉄には、2012年3月末に、8102億円の有利子負債があり、利子費用は130億円に上る。2011年3月末の有利子負債が8769億円であるので、期中平均有利子負債残高、(8102億円+8769億円)÷2=8436億円に対し、利子費用が130億円なので、実効金利は1.5%程度とかなり低い。この低い金利が、東京都の信用に裏付けられていることはいうまでもないだろう。民営化によって、東京都の信用の裏付けを失うことで、どれくらい調達金利が上昇するのかよくわからないが、かりに1%上昇すると仮定すると、上で計算した税引前当期純利益78億円が消し飛び、都営地下鉄は赤字に転落する。したがって、PERマルチプル法では値が付かないことになろう。

 今後も都営地下鉄の有利子負債を東京都が保証し続けるとすると、経営統合後も、東京メトロと都営地下鉄を区分経理し続けることになる。これでは、経営統合の効果が薄れるだろう。都営地下鉄を、名実ともに、東京都から独立した事業体にするためには、都営地下鉄の有利子負債のかなりの割合を、東京都が肩代わりするのが現実的である。

 都営地下鉄が抱えるもう一つのリスクは、経営統合にともなう収益減少である。現在、東京メトロと都営地下鉄を乗り換えると、一定の割引があるとはいえ、初乗り運賃が二重に徴収される。経営統合によって、初乗り運賃の二重徴収がなくなり、運賃体系が東京メトロに近づけるかたちで改訂されるなら、都営地下鉄の営業収益そのものが落ち込む可能性が高い。同じ問題は、東京メトロにもあるが、東京メトロのほうが規模が大きく利益率も高いことを考えると、東京メトロより都営地下鉄のほうが大きな影響を受けそうである。経営統合そのものが都営地下鉄の大幅減益のリスク要因になっているといえるだろう。