5.都営地下鉄の資本剰余金

 次に都営地下鉄の財務諸表を見てみよう。

         (図2)都営地下鉄の比例縮尺財務諸表

 
 基本的な特徴は東京メトロの場合と変わらない。むしろ、インフラ系の特徴がより強く出ている。B/Sがより大きく、P/Lがより小さい。一見して、資産効率が悪く、利益率も悪い。自己資本金は、それにほぼ等しい欠損金によって、事実上、相殺されてしまっている。

 ただし、公営企業独特の会計なので、解釈に注意が必要である。たとえば、2012年3月期の東京都高速電車事業会計(都営地下鉄)の資本は、1兆1442億円あるが、これは借入資本金5046億円を含んでいる。借入資本金の実態は企業債という有利子負債であり、公営企業会計上も、今後は負債に計上することになった。そこで、上の図では、有利子負債に含めてある。また、その他固定負債に大江戸線割賦買取代金が含まれているので、これも有利子負債に足してある。

 一番、大きなポイントは、資本剰余金である。これは、国庫補助金など、東京メトロが圧縮記帳しているものがほとんどである。もし、都営地下鉄がこれを圧縮記帳していれば、有形固定資産の減価償却を通じて、少しずつ利益として実現し、欠損金を相殺していくだろう。資本剰余金6384億円のうち、どれくらいがすでに償却された資産に対応する金額なのかはよくわからないが、都営地下鉄の欠損金は見かけよりも少ないはずである。

 都営地下鉄は、2011年度決算においては、当期純利益で87億円ほどの単年度黒字を達成している。しかし、このうち、59億円は東京都の一般会計からの補助金である。私鉄や東京メトロなどと比較するために、一般会計からの補助金を除いて考えると、都営地下鉄の実質的な黒字は28億円である。もっとも、私鉄や東京メトロが圧縮記帳をしているのに対し、都営地下鉄は工事負担金等を圧縮記帳せず、資本剰余金に計上しているので利益が小さくなっている。東京メトロと同様、圧縮記帳によって減価償却費が12.4%低めに出るとすれば、有形固定資産減価償却費407億円が、407億円×12.4%=50億円程度減少する。よって、利益は50億円程度増えるだろう。したがって(税引前)当期純利益は78億円程度であろうか。民営化すれば、当期純利益のうち、ざっくり4割は税金で取られることになるから、税引後利益は、78億円×(1−0.4)=47億円程度だろう。

 かりに当期純利益を47億円と仮定すると、PERマルチプル法で評価した時価総額は、47億円×40.42倍 = 1900億円、または、47億円×28.93倍 = 1360億円となる。PBRマルチプル法での評価は、圧縮記帳をした場合、資本剰余金のうち、どれだけが利益剰余金になるのかがわからないので難しい。PERマルチプル法で見るかぎり、経営統合比率は、314億円:47億円=6.7:1くらいであろう。