人はみずからの存在や経験を、物語として考える傾向がある。あなたが誰かと交流するとき、あなたは相手の物語の中で役を演じている。そこであなたや相手が何をしようとも、あなたが相手に何をしてほしいと望もうが、肝心なのはその物語を善良なものにする必要があるということだ。

 誰かに何かを求めるとき、こう自問してみよう――相手はどんな物語を持っているのか。そして自分の役割や行動が、相手の物語において善なるかたちで反映されるようにするのだ。

 私たちは、他人の内なる動機を焚き付けることができるが、それは多額のお金によってではない。相手の物語を理解し、手を差しのべることで可能となる。先述の運転手の上司は、こんな言葉でそれを実現できるかもしれない。「君は乗客を助けるために外に出なくてもよかったのに、そうしてくれた。それも雨の中で。素晴らしいことだよ。結局君はそういう人なわけだ。私もありがたいけど、歩行器の老人も絶対に君に感謝してるよ」。そうすれば運転手は「自分は雨の中、外に出て乗客を助けるような人間だ」と、自己認識――つまり自分の物語――をつくるだろう。

 究極的に言えば、人の「内なる動機」は、その人自身の「内なる課題」である。私たちは、相手の内にあるそうした動機を削ぐことも、鼓舞することも可能だ。それがごく簡単にできるときもある。

 私自身についても、「自分は雨の日に、障がい者の老人がワゴンに乗るのを助けるような人間だ」という良い物語ができた。自信にもなったし、こうした物語をもっとつむぎたい。だから、今後もまた同じようなことをするだろう。

 ワゴンから立ち去る時、私は辛抱強く待ってくれていた後続の運転手たちに手を振り、通りすがりに口の動きで「ありがとう」と伝えていった。運転手たちはひとり残らず、笑みを返してきた。これは凄い。ニューヨークのドライバーが、10分の渋滞に巻き込まれた後で、笑顔を見せたのだ。嘘ではない。

 彼らは、笑顔の裏でこんな物語をつむいでいたことだろう。「自分より恵まれていない人が目の前で困っていたら、自分は辛抱強く待ってあげるタイプの運転手だ」

※動機に関する最近の研究については、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2010年7月号『ほめるよりまず仕事がはかどるように支援せよ』(テレサ・M・アマビール、スティーブン・J・クレイマー)と、ダニエル・ピンク著『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』 (講談社)を推薦します。


原文:A Story About Motivation February 3, 2010