責任ある企業の経済性

「社会的責任も大事だとは思うけど、採算が悪くなるのは困る」と思う人も少なくないのではないでしょうか。理念としてはわかるけど背に腹は代えられない、特に最近はそうでなくても景気が悪くて大変なのだから、と。

『レスポンシブル・カンパニー』では、その考えは誤った通念であり、責任ある進め方に転換するとコストダウンになる場合が多いとされています。その証拠として挙げられているのが、安売りの雄、ウォルマートです。

 ウォルマートは、低価格を追求して成長した企業であり、環境負荷などの社会的責任には注意を払っていませんでした。しかし、やり方があまりにひどすぎると消費者の反発を買い、1社に対するものとしては史上最大規模と言われるほどの訴訟各種に直面した結果、基本的な環境対応を推し進めることにしました。あくまでポーズとして始めたことだったのですが、デオドラントスティックの過剰包装をやめる、洗剤の濃縮度を上げてボトルを小さくする、トラックに補助電源を搭載してアイドリングを減らすなどしたところ、コストが何百万ドルも下がるという結果が得られたのです。梱包材を減らすほど、エネルギーの使用量を減らすほど、利益が増えたのです。事業活動から出る炭素を減らすほど、無駄遣いが減ったのです。こうして、広報用ポーズとして一部の部署で始めたことが全社に広がっていきました。

 いま、ウォルマートは、「持続可能」を全社的なスローガンとして責任ある事業を強力に推進しており、エネルギーの全量を再生可能エネルギーでまかなう、廃棄物はゼロにする、資源や環境を維持できる製品を販売するなどを目標として掲げています。アイドリングストップ機構付きトラックの保有台数も世界一となりました。

 ウォルマートの改善は、自社の業務範囲にとどまりません。前述の目標に向けて体系的に改善を進めようとした結果、サプライヤーにも協力を要請することになります。環境負荷のうち、店舗業務や輸送によるものは10%に過ぎず、90%はサプライチェーン側で発生しているという調査結果が得られたからです。製品がどのような条件で作られているのか、どのようなプロセスが使われているのかなどを完全に把握しなければ、自社の名前でどのような負荷が発生しているのかわからないわけです。梱包の簡素化やトラックの補助電源搭載も効果がありますが、それは、サプライチェーン側で可能な省エネルギー、節水、ゴミ削減に比べれば微々たるものにすぎないとも言えます。

 サプライチェーンにおける改善は、サプライチェーン任せではいけません。供給を受ける側も協力して進める必要があります。製品が環境に与える負荷の90%は設計段階で決まってしまうからです。中国や東南アジア諸国でどれほどの負荷が発生するのかは、そのほとんどを米国や日本のデザイナーが決めているわけです。