1. 株主価値の創造

 批評家たちは、株主価値に向けた経営とは、短期的な株価の最大化にほかならないと示唆する。つまり、株主価値に向けて活動する企業は、時価総額をこれまで以上に高めるためにはどんなことでもする、という考え方だ。これはまったくの誤解である。株主価値とは、企業の価値が高まれば、それに従っていずれ株価も上昇する、と理解するのが正しい。目標は、価値を高めること、そしてその価値が価格に反映されるのを待つことなのだ。

 一部の企業幹部は、短期的な株価を上げるために経営すべきではないと認めつつも、株主価値に向けた経営という概念を受け入れることに依然として消極的である。なぜ株主価値に向けた経営が適切な目標であるのか、またその目標に、従業員、顧客、サプライヤーを含む他のステークホルダーがどのようにかかわってくるのか、これらの点は説明する価値があるだろう。

 CEOの仕事は、資本の機会費用を上回るリターンを得ることを目標に、資源配分を行うことである。これには困難なトレードオフが伴う。問題は、長期的に見て人的資本や金融資本を最大限に活用できるよう、いかに配分するかを考えることだ。長期的なフリーキャッシュフローの最大化による価値創造は、選ぶべき戦略やそれに続く業績を判断するうえで適切なアプローチとなる。

 ここで、他のステークホルダーの登場である。企業は、長期的なフリーキャッシュフローを最大化するために、あらゆるステークホルダーとの関係を適切に管理しなければならない。たとえば、自社の製品やサービスに対して過度の対価を請求する企業は、競争で顧客を失うことになる。一方、不十分な対価しか請求しない企業は、顧客を喜ばせることはできるかもしれないが、その他の債務を支払ったり、改良された新製品やサービスを顧客に提供したりすることはできなくなるだろう。つまり、企業が株主価値志向で成功するためには、顧客と株主の双方に対して価値をもたらす価格を見極めなければならない。

 同様に、従業員へ支払う給与水準が低すぎる場合、競争の激しい市場では、標準以下の労働力しか確保できない。一方、米国の自動車会社のように、従業員の給与水準が高すぎる場合、企業の競争力を維持する能力が損なわれることになる。これと同じ論理は、サプライヤーや政府にも当てはまる。

 株主価値志向のアプローチでは、企業幹部が難しい選択に直面することが考慮され、どれを選ぶべきか決断するための手段が織り込まれている。しかし、これだけは明確にしておくべきというポイントが1つある。企業は、ステークホルダーを組織的にあざむくことで株主価値を最大化することはできない、という点である。