ブラウンの発言を端緒として、アジア市場や世界市場で企業が直面する一般的な経営課題について、パネリストの間で素晴らしい意見交換が行われた。そして最後に、多岐にわたったディスカッションを締めくくるに当たり、私は印象に残った8つのフレーズを参加者とともに確認した。

1.「顧客のため、そして顧客として」

 ブルース・ブラウンはこの言葉を使って、P&Gは2015年までに50億人の消費者に商品を提供する(現在からは8億人の増加が必要)という公の目標を達成する方法を説明した。ブラウンは、市場調査をどれだけ現地化して行えるかが、その戦略にとって重要な要素だと言う。

2.「赤い点」

 シンガポール科学技術研究庁マネージング・ディレクターのテックセン・ロー博士は、シンガポールが地図上に表示される様子をこう表現した。国の規模が小さいために、かえってシンガポールは敏捷に行動することができたと言う。参加者たちは、制約条件がしばしばイノベーションを育むことがある、ということを再認識した。

3.「フィレンツェ」

 P&Gのアジア研究開発担当副社長であるマウリツィオ・マルケジーニは、シンガポールとイタリア・ルネサンス期におけるフィレンツェとの類似性を指摘した。いずれの都市にもさまざまなアイデアが流れ込み、学問分野がぶつかり合う。困難な課題を解決するためには、人々が新たな方法で協働する、こうした学際的な共通の場が必要となる。この点で、彼と私の意見は一致した。

4.「技術を単純化し、新しいビジネスモデルも単純化する」

 メドトロニックの心臓不整脈治療事業のアジア地域社長シャミク・ダスグプタは、インドや中国などの市場で破壊的な成長を遂げるには、この2つの要素が決定的に重要だと説明した。

5.「非消費集団」

 アジアのどの市場がもっとも大きなチャンスがあるか、という質問に対して、シンガポール国立大学のC. C. ハン教授は、この用語を使って答えていた。例として、2010年に2000万台の電動バイクが中国で売れた事例を挙げていた。購入者の多くは女性、およびそれまでバイクを購入したことのない人たちであったという。

6.「できるだけ共通化し、必要に応じて差異化する」

 P&Gのアジア地区社長のデボラ・ヘンレッタは、彼女の考えるアジア市場の攻略法について説明してくれた。彼女は、それぞれの市場で消費者は実際に異なるということを、いくつか具体的に指摘した。たとえば、アジアの消費者の多くは「美肌」というと色白の肌を思い浮かべるが、アメリカの消費者は日焼けした肌を連想する。基準を適切に活用することによって、P&Gのような企業は、そのグローバルな潜在能力をいかんなく発揮することができる。

7.「はっきりとはわからない破壊的イノベーション」

 マルケジーニはこの言葉をほとんど使わなかったが、彼が話してくれた事例について、私がこの言葉を使った。マイクロカプセルにより、衣類の芳香が長続きする製品を〈ダウニー〉(訳注:衣類用柔軟剤)のブランド名で、P&Gが発売したときの事例である。フィリピンのような市場では、この技術によって、高価な香水を買うことのできない消費者に香りという利点を売り込むことができた。

8.「リフレーミング」

 ヘンレッタは、今日の経済において、イノベーションを習得する際に生ずる課題の多くをクリアするためには、リフレーミング(訳注:ある枠組みを外して別の視点で見ること)が重要であると言う。「従業員の構成も、企業が商品を提供しようとしている顧客を反映させるべきだ」という発言が特に興味深かった。

 今回、活発な議論が行われ、アジアでのイノベーションにかける6人のリーダーたちの情熱を感じることができた。そして当日最後の行事として、ブラウン、ヘンレッタ、そして主だった政府高官たちが、イノベーション・センター起工式の鍬入れを行った。私もまた、中国の旧正月の儀式である「ローヘイ」を体験する機会があり、伝統に従ってサラダをかき混ぜて、来るべき年にお金を稼げるようにと祈願してきた。


原文:Procter & Gamble and Innovation in Asia February 3, 2011