戦略論にこじつけると

 これが何を意味しているのか。戦略論の視点から考えてみたい(お断りしておきますが、そもそもスポーツはビジネスとは異なる。最大の違いは、スポーツだと勝者は1人、オリンピックの金メダルは1つしかないのに対して、ビジネスの勝者は一つの種目、業界でも同時に複数あり得る。それにビジネスの場合は戦略を持つ主体が企業として特定できるのに対して、ここで問題にしている「国」には明確な戦略を持つ主体が存在しないのが普通。ということで、以下の話はあくまでも「こじつけ」でして、ま、ユルイ話としておつき合いいただければ幸いです)。

 戦略の本質は競争相手との「違い」をつくることにある(だから、競争戦略論を仕事にしている僕はすぐに競合間の「違い」に目がいってしまう。国別メダル獲得数ランキングをみても、1位がどの国だとか、日本が何位なのかということよりも、日本の「メダルの取り方」に他の国とどういう違いがあるのか、日本と対極にある国はどこか、ということをすぐに考える)。

 競争戦略論には、昔から大まかにいって2つの考え方がある。この2つでは想定している「違い」が違う(詳しくは拙書『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』をお読みください。宣伝恐縮)。ひとつは「ポジショニング」、もうひとつが「能力」(capability)という考え方だ。

 ポジショニングの戦略論は「トレードオフ」の論理を重視する。利用可能な資源は限られている。全部を同時に達成できるわけではない。だから何をやって、何をやらないかをはっきりと見極めることが大切になる。「これで勝つ」というのをあらかじめ決めておいて、そこに限られた資源を集中的に投入する。だから「どこで勝負するか」という位置取り(ポジショニング)が戦略の焦点になる。

 このようにポジショニングの戦略論が「アウトサイドイン」の思考をとるのに対して、能力の戦略論は「インサイドアウト」の発想で違いをつくろうとする。他者よりも能力に優れていれば勝てるはずだ(当たり前ですけど)、と考える。ポジショニングは二の次で、まず能力の開発を重視する。時間はかかるにしても、よそが簡単に真似できない能力を構築できれば、競争に勝てる。戦略の焦点は、そうした独自の能力を構築していくプロセスの方にある(ま、論理を追い込んでいけば、ポジショニングと能力は実は裏腹の関係にあり、どっちがイイかという話にはならないのだが、その辺はここでは省略)。

 で、何が言いたいかというと、各国のオリンピックに対する戦略(という言葉が過ぎるようだったら、「構え」といってもよい)の違いだ。

 そもそもアメリカや中国、ロシアといったスポーツ大国は、人口が多かったり、体がデカかったり、予算が豊富だったり、歴史があって選手層が厚かったり、投入できる資源が普通の国よりもずっと多い。当然のことながら上位に来る(3位にイギリスが入っているが、これは開催地ならではの気合が入ったことが大きいのでは。日本も1964年の東京大会では堂々の3位だった)。

 相対的に資源制約が大きな国にとっては、ポジショニングの戦略をとるのが合理的になる場合がある。あれもこれもと手をつけずに、あらかじめ「必勝種目」を決めて、そこに集中的に資源投入する。他の種目には手を出さない。(この辺からこじつけ感が強くなってくるのだが)上で見た金メダル集中度が高い国の戦略には、ポジショニングの発想が強いといえそうだ。とくに北朝鮮はポジショニングの国にみえる。出る以上、必勝!勝てる少数の種目に集中投資!こうした戦略がダントツの金メダル集中度に反映されているという解釈だ。

 金メダル集中度3位の韓国もポジショニングの戦略が色濃い気がする。聞いた話に基づく漠然とした推測だが、日本に来ている韓国人の友人が言うには、「日本の中高校生が運動部でスポーツを楽しんでいるのに驚いた。韓国のクラブ活動では、勝てる種目をやる、やる以上は勝つ、勝つためにやる、という目標が明確で、もっとストイックだ。そういう人しかそもそも部活をやらない」。

 一方の日本はというと、オリンピックの成績の背後には、能力重視の戦略があるように思う。とりあえず好きなことをやる。で、頑張る。コツコツと努力する。時間をかけて能力をつければ、オリンピックに出られる(国としては、能力がある順にオリンピックに出す)。能力が発揮できればその結果としてメダルが手に入る、という考え方だ。

 だからやたらに多くの種目に出る。で、わりといいところまで行く(日本は金メダルの数では韓国の半分程度だが、総獲得メダル数は逆に10個多い)。でも世界トップレベルの熾烈な競争がある。極端に能力がある選手(吉田選手のこと。しつこいようだが、この人の顔はスゴい迫力ですね。伊蝶選手という人も眼力が凄い)は別にして、金メダルまではなかなかいかないのが現実だ。それが「銀銅メダル比率」で1位(つまり金メダル集中度が20か国中最小)という結果になっているという成り行きだ。

 ということで、戦略論に無理やりこじつけてオリンピックの成績について考察してみた。次回はこじつけついでにもう一つ、オリンピックの成績にみる日本の成熟ということについて話をさせてください。

ご意見、ご要望は著者のツイッターアカウント、@kenkusunokiまでお寄せください。