標準化と統合を進めれば、グローバル経営基盤ができる

――グローバルな経営基盤を実現するうえでのカギは何でしょうか?

 先に挙げた、会計、人材、営業などの7つの重点分野、どれを取ってもカギとなるのは標準化と統合です。標準化と統合を進めていけば、グローバル経営基盤を確立することができます。

 IBMの営業を例に取ってご説明しましょう。IBMはツールを活用し、全世界で営業案件管理を一元的に行っています。商談が現在どの段階にあるかというステータス、受注の確度などについて、世界中の営業担当者が標準化された共通の基準にのっとって情報共有しているのです。

 このためIBMの社員は、たとえば日本や欧州、アフリカの営業担当者で集まって案件について会話する際も、共通認識を持って、同じ用語を使ってコミュニケーションができます。お客様がグローバル企業であったり、複数の国が関係する商談でも、各国のIBMの営業担当者が、スムーズかつシームレスに話を進めることができるのです。

 意思決定も精緻で迅速になります。たとえば1年先の案件の見通しや需要予測まで行うことも可能です。こうした見通しに基づいて生産の準備や在庫管理、必要なコンサルタントの数まで計画することができる。常に最新の情報をもとに、グローバルに判断することができるのです。

 ソフトウェアも業務フローも勘定科目もバラバラななかで経営をするのは難しい。標準化と統合によりグローバルな経営基盤を整備し、そこで集めた情報と、マクロ経済で起こっているトレンドを見ながら、スピーディな経営判断を行っています。一昨日も欧州と米国では、最近の両地域の経済状況に基づいて、コスト削減など、お客様が短期間で成果を出せるソリューションの提案にフォーカスしていくことが決まりました。

「カイゼン」を生産現場から間接部門に広げるべき

――IBMが今、取り組んでいる経営課題はどんなものでしょうか?

「経営の自動化」を目指しています。かつてIBMのコンピュータがチェスのチャンピオンに勝ったことがありますが、最近では質問応答システム「Watson」が米国の人気クイズ番組に出場してクイズのチャンピオンに勝利しました。こうした技術への投資も、経営の自動化につながるものです。

 これから多くの企業が世界でビジネスを展開するようになると、異なる文化や言語、時差や距離をつないで複雑な経営判断をする必要が出てきます。すべてを人間が行っていたら、経営者は体が持ちません。情報の分析を自動化することで、何か問題が発生したとき、つまりどうしても人間が判断しなくてはならないときだけ、経営者に情報が入る仕組みが必要です。そうしないと、競争に勝ち残れない時代になるでしょう。

――IBMが取り組んできたグローバル経営基盤の整備のなかで、日本企業のグローバル化の参考になる点はどういったところでしょうか?

 IBMのやり方が日本企業すべてにとってベストであるというわけではありません。また、私たちのこうした取り組みをご紹介すると、「それはIBMだからできるのではないか」と言われることがよくあります。しかし私は、IBMが行ってきた経営基盤の整備は、非常に日本的な方法だったのではないかと感じています。日本企業がこれまで製造現場で行ってきた「カイゼン」を、間接部門に応用して世界規模で実施しただけなのです。

 日本企業を見ていると、製造現場では標準化や効率化が非常に進んでいる。そうした「カイゼン」をブルーカラーの分野に留めるのではなく、ホワイトカラーの分野にも広げるべきです。それをやらないのは非常にもったいない。すばらしい製品、質の高い労働力、労働倫理も持ち合わせており、高いブランド力もあり海外へも進出している。あとは、すべてを世界規模で最適化し効率的にまわしていくための基盤です。それさえあれば、日本企業はグローバルに成長する力があると思います。

 今は、戦略よりも実践が重要です。日本の経営者も、それは重々理解しています。戦略を行動に移してやり遂げることで、自然にグローバル化は実現できます。

(文/ライター 大井明子)