だとしたら経営には何ができるでしょうか。これは!という商売センスの匂いのする人を抜擢して、早い段階から、小さい単位であっても商売丸ごとをやらせることです。そういう機会を多く与えることで、その人のセンスを見極めることができるし、潜在的なセンスを引き出し、伸ばしていくことができます。そうしてはじめてニワトリが卵を生み、卵からたくさんのヒヨコが生まれ、ヒヨコがニワトリに成長していくというサイクルが回り出します。

 ミスミグループ本社会長の三枝匡さんは経営の本質を「『創って、作って、売る』をセットで回していく」と表現しています。連載第2回でも書きましたが、経営とはアナリシス(分析:全体を部分により分けていく)の発想ではできません。シンセシス(綜合)の思考と行動が求められます。

 アナリシスは「分ければわかる」という考え方ですが、「分けてしまえばわからなくなる」というのがシンセシスです。三枝さんは「創って、作って、売る」を分けることなく、全体を貫くサイクルをいかに回すかが経営者の仕事であると強調しています。会社のなかに「創って、作って、売る」という商売丸ごとのユニットをたくさん用意し、早い段階からセンスのありそうな人を見極めてシンセシスを任せ、そこで成果をあげる人にはさらに一回り大きな「創って、作って、売る」のかたまりを任せる。この繰り返しの中から商売人としての経営人材が育ってくるという考え方です。

ファーストリテイリングの経営者人材育成法

 ファーストリテイリングでは、社内に「FR Management and Innovation Center(FRMIC)」を設立し、次世代の経営者の育成を行っています。僕もFRMICのお手伝いをしているのですが、そこではいわゆるMBAで学ぶようなスキルは一切教えていません。FRMICの参加者につきつけられる課題は「あなたはどういう商売をつくるのか」、これだけです。参加者は商売丸ごとについての革新的な構想を求められ、それを社長の柳井正さんをはじめトップマネジメントに対して提案します。提案はその場で評価され、「これはいける!」ということになるとその人がすぐに提案の実行に向けて動き出す、そういうことをやっています。

 ファーストリテイリングの新しい事業に「g.u.」があります。g.u.は基幹事業の「ユニクロ」とはまた違ったポジションをねらった事業です。代表者は柚木(ゆのき)治さんという方です。僕はFRMICで柚木さんとこの2年ほどしばしば会っているのですが、柚木さんもまたその思考様式において「経営者」「商売人」であり、新規事業の「担当者」ではありません。

 今回お話のポイントは、グローバル化に注目しているだけではあくまでも疑似相関が見えてくるだけで、本当の因果関係は「ビジネスが直面する非連続性が大きくなるほど、商売人としての経営人材が必要になる」ということにあります。

 ファーストリテイリングの例でいえば、ユニクロのシンガポールへの進出とg.u.という新規事業の創造は、ともに「未整備の状態から商売全体をつくっていく」という非連続性の経営であるという点では、ほとんど同じことであります。柚木さんがg.u.のグローバル化に乗り出すのは、経営者としてはごく自然な流れであります。

 柚木さんのようなセンスのある経営人材は多くの会社にとってもっとも希少な資源です。日本のように成熟した状況では、非連続性に挑戦する経営の必要性は大きくなります。そのもっとも典型的な表出形態がグローバル化なのですが、グローバルのみならず、商売人としての経営人材の確保は多くの日本企業にとって最重要課題であるというのが僕の見解です。

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