成長のジレンマを克服していくためには、新しいものを身につけるために、いったん学習したことを忘れるアンラーニングを、組織も個人も意識的に行っていかなければならない。しかし、それは決して簡単なことではない。

 自分をあえて新しく不慣れな状況に置き、無能感を甘受しなければならない。アンラーニングには大きな心理的不安を伴う。しかし、個人と組織が継続的にイノベーションを実現していくためには、アンラーニングは不可欠な要素なのである。

 われわれは大人になるとともに、また組織が成熟するにともなって、余計なことを学習しすぎる。かつて学習したよいことも、行き過ぎるとあだとなる。だから、いつも学び続けるだけでなく、定期的に忘れ去らなければならないのだ。

 わが国が直面する経済環境は、決して明るいものではない。加えて、東日本大震災の影響で皆が自信を失い、創造的活動に向かう前向きな気持ちが出てこないかもしれない。しかし、それは決して悲観すべきことではない。

 1995年の阪神淡路大震災では、神戸市が壊滅的な打撃を受けた。しかし、震災で親族を亡くしたり、築いてきた資産をすべて失ったにもかかわらず、希望を失わず、新たな産業を築いた人々がいた。

 たとえば、楽天の三木谷浩史会長は、震災で親族と友人を失い、焼け野原と化した故郷を見て、エリート銀行マンとしての価値観を捨て去り、わが国のEコマースの先駆けとなった楽天市場をオープンさせた。

 日本ポリグルの小田兼利会長も、神戸で被災した1人である。被災地で飲料水を求める長い列に並びながら、公園の池を眺めて、「この水が飲めたら」と考えた。その発想が、納豆のネバネバ成分に含まれるポリグルタミン酸を使った水の浄化剤につながった。わが国ではあまりマーケットのない商品だが、途上国でのBOPビジネスの旗手である。