このように考えていくと、リーダーシップも、脳の働きという身体性を根拠としているという大胆な推論ができる。「業務志向(理性)」と「対人志向(感情)」という軸は、左脳と右脳の働きの特徴に対応しているだろうし、「現在志向」と「未来志向」という軸は、古い脳の働きにより生物に共通している現在志向と、前頭葉という新しい脳の発達により、人間だけが未来を想像することができるという特徴に、関係があるかもしれない(図)。

 詳しくは、「リーダーシップの本質」(『国民経済雑誌』2012年205巻6号)に述べているので、そちらを参照してほしい。

不安と未来の深い関係

 動物と人間を分けるもっとも大きな違いはなんでしょうか?

 多くの方がご存じのように、それは言葉をもつことだ。しかし、未来について考えることができるのも、人間だけである。いうなれば、人間以外の動物は、現在という時間の枠に囚われており、永遠の現在に生きている。人間だけが未来を考え、将来に向けて行動を計画できるのだ。

 およそ150万年前、二足歩行の直立猿人から進化する過程で、人間は前頭葉と呼ばれる脳の部位を、爆発的に発達させた。そのおかげで人間は言葉をもち、また、未来を考えることができるようになった。過酷な自然環境や外敵に備えるためには、事前に危険を察知し、未来を予見するのが効果的だ。おそらくそのために発達した人間の脳は、ハーバード大学の心理学者ダニエル・ギルバートによれば、「先読みする装置」と言い表すことができる。

 だが悲しいかな、未来を先読みすることは、不安という感情を喚起する。不安と計画が同根であることは、両者が前頭葉の働きに依っているからだ。それは、不幸にも鉄道事故によって前頭葉を損傷しながら、(性格は変わってしまったものの)植物状態や言語障害や記憶喪失にもならず、13年間もほぼ正常に生き続けたフィネアス・ゲイジの症例からもわかる。前頭葉を失ったゲイジが失ったのは、不安という感情とともに、将来を計画する力だった。