関与と範囲と時間幅

 有識者であろうがなかろうが、社会の声が頼りないのは、回答者のその企業に対する「関与」(「コミットメント」といってもよい)が希薄だからだ。その点、第2の「顧客」は関尾の程度がずっと大きい。実際にその会社の製品なりサービスにカネや注意や時間を投入しているわけで、顧客の声は社会の声よりも説得力がある。

 ただし、顧客の声にも難点がある。それは範囲の問題だ。顧客と会社の関係は、特定の製品やサービスという「点」に集中している。いま知りたいのは「よい会社」だ。評価対象が会社全体である以上、つきあいも「面」になっていなければならない。しかし顧客の声からは「面」がわからない。

 世の中には商品やサービスのカテゴリーごとにさまざまな人気ランキングがある。よく知られたものに、たとえばアフターサービスに優れた企業のランキングがある(毎年『日経ビジネス』で報告されている)。うがった見方だが、その会社の商品(サービス)がわりとトラブりがちなほうが、アフターサービスの出動機会が増える。アフターサービスに注力すれば、そういう会社の方がランキングで上位に来るかもしれない(「店でいまひとつのホステスほどアフターで頑張る」というのと近い。ちょっと違うかな?)。

 ま、これは見方としてひねくれすぎだが、一人のホステスを評価するだけではその店の「良さ」はわからない。アフターサービスのランキングは、商品そのもののランキングとかなり顔ぶれが違うことも事実だ。商品が良いとしても、それは特定の商品ついての評価で、会社という「面」を「点」で評価するのには無理がある。

 次に株主。カネを出す人々なので、当然のことながらコミットメントはある。しかも、会社を「面」評価ができる。反応的尺度として株主の声は優れているように見えるかもしれない。しかし、株主にも大きな難点がある。それは時間幅の問題だ。

 その性格上、株主にとっては「儲けさせてくれる会社がイイ会社」となる(ま、「IRが優れた会社」という視点もあるにはあるが)。評価の主軸は「で、いくら儲かった?(儲かりそう?)」になるだろう。

 ことほど左様に、株主は評価の物差しがやたらと微分的になる。株はいつ買ってもいつ売っても自由。前後の文脈を無視して、二時点間での変化率が問題となる。評価が短期的になるという成り行きだ。世の株主が一度投資したら長期的に株を保有するウォーレン・バフェットみたいな人ばかりだったら株主の声は大いに信頼できる尺度になるだろうが、現実はそうではない。

 単純に比較はできないが、株主の声は顧客の声と比べても評価がさらに短期的になるといえそうだ。商品(サービス)のほうが、その会社とのつき合いが持続的になるのが普通だ。顧客と株主を比較すると、範囲の点では株主、時間幅の点では顧客に分があるように思うが、ならすと五十歩百歩というところだろう(←成句の意味を理解したうえで使っています)。

金メダルは「従業員の声」

 残る「従業員の声」。コミットする対象は「点」ではなく、会社という「面」だ。この点で顧客よりも「よい会社」の尺度として適している。仕事である以上、一日の相当の時間を投入する。コミットメントも強い。しかもカネを出すだけの投資家と比べて、従業員のコミットメントは、大げさにいえばその人の人生に将来にわたって大きな影響を及ぼす。カネも大切だが、株主と比べて従業員のコミットメントはより広く深いといえるだろう。

 株主と決定的に異なるのは、従業員のコミットメントの方が評価の時間幅がずっと長いということだ。長期的な視点での評価が可能になる。就職と離職がその人の自由意志であるにしても、辞めることを前提に就職する人は、売ることを前提に株を買う人よりもはるかに少ないだろう(そもそも、売ることを考えずに株を買う人はよっぽどのマニアに限られる)。

 社会や顧客や株主の声に比べて、従業員の声は関与と範囲と時間幅の三条件をすべて(相対的に)よく満たしている。ということで、僕の考える「『よい会社ランキング』のよい尺度ランキング」は以下のようになる(オリンピックも終わったばかりなので、メダル形式で)。

金メダル:従業員の声
銀メダル:該当者なし(メダルに「該当者なし」というのはヘンかな)
銅メダル:顧客の声と株主の声
予選落ち:社会の声(有識者含む)

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