顧客の「行動」や「感情」を捉える

 どのようなタイプのデータを収集するべきでしょうか。顧客の表面的な好みや要望の理解にはアンケートやフォーカスグループインタビューを使って顧客の「考え」を直接聞く方法が有効です。しかし、顧客の「考え」は顧客自身の経験を反映しているため、過去に引っ張られるという限界があります。人間中心イノベーションでは、顧客の「考え」をそのまま受け取るのではなく、「行動」や「感情」を捉えることで、顧客の本当の欲求や願望を立体的に理解していこうとします。

「行動」には、自分自身が自覚していない問題や欲求、願望が表れます。例えば、製品がうまく扱えない、あるいは何かを間違えてしまう、といった経験は誰にでもあります。しかし人は無意識のうちに問題に適応してしまうので、問題を意識することができません。そこで、顧客の行動を注意深く観察することで、目の前に存在する顧客の言葉にならない欲求や願望を捉えます。

 さらに重要なのが「感情」です。「考え」は過去、「行動」は現在に対応していますが、「感情」は未来に対して決定的な影響を与えています。投影的な手法を使って顧客の「感情」を捉えることで、どのような感情が顧客を行動へと駆り立てているのかを理解します。

極端な人を対象にする

 一般的なマーケティングリサーチでは、ターゲットユーザー=平均的な人を対象にします。平均的な人は現在の提供価値を享受している人たちで、ニーズの傾向やボリュームの把握に向いています。

 人間中心イノベーションでは平均的な人だけではなく、極端な人を積極的に活用します。極端な人は現在の提供価値を享受できていない人たちです。極端な人には、いわゆるリードユーザーといわれる先端ユーザーや、極端なヘビーユーザー、代替カテゴリーの先端ユーザー、非ユーザー、幼児や老人など特殊な条件の人なども含まれます。極端な人を採用するポイントは、これまで前提にしてきた理論やモデルが使えない点にあります。極端なユーザーを分析対象に加えることで、これまでの次元を超える理論やモデルの構築を目指します。

 また、彼らは単に特殊なニーズを持っている人たちではありません。彼らは普遍的な問題をより鋭いレベルで感知し、平均的な人が自覚できない欲求を意識することができます。極端な人同士、あるいは極端な人と平均的な人の比較により、顧客の本質的な欲求や願望が理解しやすくなります。