イギリスの投資顧問会社コラーキャピタルに水野弘道さんという人がいます。世界で活躍するバリバリの金融マンである彼に、日本人はなぜウォールストリートなど世界の金融の中心で活躍できないのか聞いたことがありました。すると「ポートフォリオの概念が日本人にはないから」との答え。彼によると、ポートフォリオ経営の本質は過去を忘れる力。過去をなかったことにして、事態が変われば、スパッと気持ちを入れ替えて、あたらしくポートフォリオを組みなおすという変わり身の早さが求められます。

 これがどうも日本人は苦手です。たとえばリーマン・ショックが起きたときに、日本の金融マンは「これまではなんだったのか」と考え込んでしまう。欧米の金融マンはすぐに損切りして、きれいさっぱりと忘れて「ハイ、次」という感じでポートフォリオを組み替える。これは金融の話ですが、事業のポートフォリオ経営でも基本となるロジックは共通しています。

 電機メーカーでいえばフィリップスなどは、昔から音響だの半導体だのとやってきましたが、あるときポートフォリオを組み替えて、ばっさりと半導体部門を切ってしまいました。過去をなかったことにして新たなスタートを切ったわけです。

日本企業にとって商売は、
剣道や柔道と同じ「道」

 日本企業ではそうはいきません。「これからどこに行くのか」だけでなく、「これまで何をしてきたのか」を重視します。日本企業にとって商売は、剣道や柔道と同じ「道」なんです。過去から未来まで連綿とつながっていて、それが事業のドライバー(駆動力)になっています。日本と欧米、どちらが良いか悪いかではなく、そういう違いが傾向としてあるということです。

 見方を変えれば、ポートフォリオに頼らずとも、一意専心が時間軸での変化対応力をもたらす、これが日本企業の強みだとも言えます。東レは素材の世界で一意専心の代表選手です。炭素繊維などは数十年も赤字で続けてきて、最近ようやく花が開きました。そういう時間軸で腰を据えた経営はポートフォリオの最適化に逃げてしまう企業には決してできません。

 任天堂もゲーム専業でやってきました。ある時期からどんどんゲーム機が高度化して、半導体の勝負になってきました。「半導体の勝負になるとソニーには勝てないだろう。では何が面白いのか、何が自分たちの原点なのか」と考えたときに、生まれたのが「Wii」です。花札の頃からエンターテインメントとは何か、何が人を夢中にさせるのか、といった道を追求してきた任天堂ならではの答えだったのだろうと思います。