技術のマネジャー層の厚みがカギ

 2008年、私は長年勤めた一橋大学という完全文科系の大学から、完全理科系の東京理科大学に移りました。私自身の転身は、「技術立国が日本の生きる道である」という確信によるものです。技術を現場で支えるマネジャー層を、厚く豊かなものにするために微力を尽くしたい気持ちもありました。

 東京理科大学大学院MOT専攻で私は、現場マネジャーを育てるためのお手伝いをしています。「わがMOTで学べば、マネジャーになれる」とは言いません。人は現場でしか育ちません。ただ、MOTの教育を受ければ育ち方が違う。現場で起きる諸々の出来事に向き合いながら、「こういうことか」と学ぶスピードが速くなります。

 当MOT専攻の特長は大きく3つあります。

 第1に、教員の質です。1人ひとりの力量は当然のことながら、教員のバックグラウンドにも注意しています。アカデミックとビジネス、コンサルティングという、いわゆるABCのバランスのとれた教員構成が重要です。必ずしもABCで3等分というわけではありませんが、理論と実務の片方に偏るのではなく、両方をうまく組み合わせることで効果的な教育を実現できると考えています。

 第2に、ロケーションのよさ。MOT専攻の置かれた建物を一歩出れば、目の前に神楽坂の賑わいがある。平日は21時40分、土曜日は19時または19時半に授業が終わってから、居酒屋などに場所を移して議論の続きをする学生が非常に多い。私を含めて多くの教員も参加しています。

 けっして飲み会があることを強調したいのではありません。気兼ねなく語り合う経験を通じて人間関係が濃くなるということをお伝えしたい。結果的に、授業における議論も深まりますし、相互に刺激し合うことで新しいアイデアが浮かぶことも、自分の考えがより明確になることもあります。

 第3に、学生の質です。冒頭で『技術経営の常識のウソ』を紹介しましたが、その8割程度は卒業生が執筆しています。教員の手によるのは残り2割程度。当MOTでこうした書籍をすでに3冊出版していることが、学生と教育の質を雄弁に物語っていると思います。

 もう1つ指摘したいのは、人事です。よく見聞きすることですが、「研究開発で赫々たる成果を上げているから、そろそろマネジャーに昇進させよう」というやり方は、百害あって一利なし。いくら技術に強かったとしても、事業経営マインドの重要性を自覚しないエンジニアを意思決定に関わる立場に就かせるべきではありません。

 いちど違った意思決定が行われると、それをリカバーするために大変な労力を要します。そんなことに無駄なエネルギーを使っている場合ではないのです。

 先ほど「技術立国」という言葉を使いましたが、総じて日本企業の技術レベルが低下していると心配する人は少なくないでしょう。その一方で、技術分野のマネジャーを育成し、強い現場づくりに向けて地道な取り組みを重ねている企業もあります。

 重要なのは現場です。上に立つ人たちに期待したいのは、「これは」という若手を集めて、日ごろから事業経営に関わる議論に引きずり込む。そんな取り組みを実践できている企業には底力があります。そこで、最終回となる次回は、日本企業の強みを確認し、グローバル市場で勝ち抜くための方策について考えてみたいと思います。