技術の目利き、人の目利き

 ステージ‐ゲート・プロセスの問題点を指摘しましたが、私はこうした仕組み自体を否定するつもりはありません。現場が好き勝手に研究開発を進めれば、それこそ無秩序に陥ります。

 重要なのは運用です。よくわからないことをデータや数値を使って厳格に管理しようとするからうまくいかない。ステージ‐ゲート・プロセスを成功させるコツは、「いかに緩く運用するか」です。その塩梅を判断できるのは、人でしかありません。責任を一身に背負う覚悟を持った技術の目利きが、最後は自らの経験と主観に基づいて判断するしかない。

 そのような真剣勝負が、ステージ‐ゲート・プロセスの中で実行されているでしょうか。むしろ、責任を負うべき人たちが責任から逃れたいために、このような公平性、客観性を装った仕組みが広がったのではないか。私にはそんな風に思えます。

 これは、人事制度についてもいえることです。技術の目利きと人の目利きはよく似ています。「誰を昇進させるか」「誰にこの事業を任せるか」といった人事の判断は、最終的には主観に頼らざるをえません。昇進させた人物が期待通りの働きができなければ、人事権者は批判を甘受しなければなりません。

 それが嫌だから、「公平で客観的」な制度に依拠して人事を決める。経営者は「モチベーションを高めるため」などと言いますが、私には覚悟のなさを示しているだけのように見えます。

 数十年前に先輩から聞いた教訓を、私はいまも大事に守っています。「新しい教員を採用するときは、一晩酒を飲んで話をすればだいたい見当がつく」と先輩は言いました。論文の数などは関係ない。酒を飲みながら質問して、その答えを聞く。それが最高の人事評価である。最後は、「アイツ、いいな」で決めるほかありません。

 技術の目利きの話に戻しましょう。CTOや経営層の目利き力も重要ですが、キーマンは、最初の段階で大事な判断を行う現場マネジャーです。覚悟と責任を持って「これをやる」「やらない」と判断できるマネジャーがどれくらいいるか。その厚みが企業の実力を示します。もし不適任者が2~3割でもいれば、本当にえらいことです。