思いつくかつかないか

 拙書『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』では、戦略を因果論理でつながったストーリーとして考える視点から、優れた戦略の基準を論じた。この本の中では、さまざまな企業の優れた戦略ストーリーの事例を使って、僕の主張を説明している。たとえば、デルやアマゾン、スターバックスといった海外の企業、ガリバーインターナショナルやマブチモーター、アスクルといった日本企業の事例だ。

 こうした優れた戦略ストーリーは、いずれも戦略のイノベーションの事例だといえる。それまでその業界で支配的だった戦略を、その延長上に「進歩」させたものではない。いずれも高い経営成果をもたらした戦略であり、需要サイドにも大きなインパクトをもたらしている。

 こうした企業がなぜ戦略のイノベーションを実現できたのか。いずれの戦略ストーリーにも、とりたてて難しい構成要素(たとえば、非常に高度な技術)が含まれていたわけではない。「やろうと思えばできること」ばかりで構成された戦略だ。それまで「やろうと思っていたけれども難しくてできなかった」という類のものではない。誰も「思いつかなかった」のである。当たり前の話だが、誰もが思いつかなかったからこそ、その戦略はイノベーションになり得たのだ。

 だとしたら、「なぜそうした優れた戦略を誰も思いつかなかったのか」、これが戦略イノベーションについてのもっとも本質的な問いになる。この問いに対する答えを考えてみれば、戦略イノベーションの本質が見えてくる。次回は、イノベーションを起こした戦略ストーリーの古典的な大名作、サウスウェスト航空の事例で「なぜ思いつかなかったのか」を考えてみたい。

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